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726  先を見据えて

 ゴーリルが居る場所はまだまだ遠い。二日はかかる予定だ。馬の脚で。大分遠い。

 今の俺たちからすると距離としては確かにそうだが、魔族の中心都市には近いと言う事らしい。

 それは要するにゴーリルが味方になれば少ない手勢ではあれども直ぐにボンズルに奇襲をかけられる距離であると言う事である。

 サシャが頼るくらいなのだからそれ位の兵力は持っているのだろう。そうでなければ危険を冒している事になるだけである。中心に近ければ近い程にボンズルの兵をこちらに差し向けやすいと言う事なのだから。


 検問で蹴散らした兵がボンズルに報告を繋ぐのはもう少し先になるだろう。それまではサシャの動きをボンズルが予測できない時間であると言う事だ。

 ならばその間にもこちらは動けるだけ動いて出来るだけやれることをやっておかねばならない。


 王女が捕まらず、そして逃げ回り、挙句に殺す事もできておらず、手紙を貴族たちにばら撒いて、そしてゴーリルの元に身を預けようとしている。

 きっとあの眼鏡、追っ手だったレキスはおそらく昇進をできずに逆に責任を追及されるのではないだろうか?むしろ職位を落とされる可能性も出て来た。

 御気の毒様である。自分の事しか考えていないからこその結末と言ってもいいのだが。

 レキスが逆恨みしてくるような奴じゃ無い事を祈るばかりである。


「このような森の中で追手から逃れるために隠れなければならないなんてな。王女であるはずの私が情けない事だ。」


 途中に入って深い森が見えたので道を大きく外れてそこで今日は野宿である。サシャが言った通りの理由で。


「もう気にすんなよ。一々そんなちっちゃい事くらいで弱音を吐くのは止しとけ。これから自分は何をしようとしてるのか、それを頭の中に常に入れて物事を考えろ。んで、成した後の事にも考えを巡らせとけ。」


 ボンズルをやっつけた後である、大切なのは。サシャがそのまま王位に就くのか、あるいは他から婿を取ってそいつと共に睦まじくやっていくつもりか、あるいはボンズル以外の誰かにその王位を譲るのか?

 譲る場合はそう言った高い身分のやんごとなき者を選ぶ事になるだろうが、王家に分家くらいはあるだろう。身分は公爵だっただろうか?そこから取って来れるだろう。


「厳しいのだなサイトーは。私はこれでも前向きであるのだがな。」


「前は向いてるが、足下、下ばっかりに視線が行ってるだろ、どう考えてもソレはよ。王族なんだろ?だったら遥か地平線を見ていてもらいたいね。今ばかりはな。」


 テントを張って食事の用意をしながら俺はそうサシャに言葉を投げた。


「ふっ・・・本当に厳しいなサイトーは。でも、嫌じゃない。・・・ありがとう。」


「礼を言われる事じゃないんだよホントに・・・コレも全部俺の為なんだからな。勘違いは・・・まあ仕方が無いか。」


「勘違いなどでは無いさ。サイトーが自分の都合で私に力を貸してくれていると納得しているよ。だけれど、礼の言葉一つくらい言わせてくれてもいいだろう?それ位に感謝しているんだ。いや、「それ位」じゃ収めきれないな。事が成って落ち着いた時には莫大な金銀財宝を与えないとね。それともこの国での爵位を与えた方が良いかな?」


 冗談に聞こえないような声音でサシャはそう俺への報酬を述べてくる。ハッキリ言っていらないのだが。

 多分その時には俺はもうトンズラしている事であろう。それが俺には分かる。

 問題が一段落着いたと思ったら俺は即座にその場から消えるつもりだからだ。

 加速状態に入れば俺を止められるモノはいない。いや、居ないのではなく、未だに一人も現れていないと言い換えればいいか。

 だからきっとサシャが俺にそんなものを与える機会はきっと訪れない。


「ああ、そうしてくれ。勝手にな。ほれ、食事だ。変わらずの例の肉だけどな。まだまだ沢山残ってるから消費に協力してくれ。」


 肉と野菜のスープ、塩で味を調えたいつものやつだ。サシャはもうそろそろこれには慣れてきたようで、渡した器の中をちょっとの間見つめてすぐに口をつけ始めた。

 きっと、無駄だ、とか、今は食事できるだけでも有難い、とか、仕方があるまい、などと心の中で渦巻いているのだろう。

 顔にそこら辺の事が思いっきり出ていた。しかしコレは成長したと言って良いのだろう。

 言葉を飲み込むと言うのは本人が予測するよりもエネルギーを使う行為だ。

 浮かび上がってきたものは吐き出してしまう方が余程に楽である。

 それを抑えてもう一度呑み下すのは、その後の心の平安と言う面で考えても労が大きいモノである。

 そんな事を出来るくらいには余裕が残っていると言う事だ。いい事である。

 今は体力をしっかりとつけておかねば後々で倒れられても困ると言うものだ。

 城から逃走してきてまだまだ日はそこまで過ぎてはいない。サシャの体力は未だに完全には戻っていない事だろう。

 精神的な方も今は気を張っていて何ともないように見せてはいるが、結構な無理をしている事がバレバレなのだ。

 ならば体力だけでも上げておかねば、いつその緊張が解けて精神的ショックでぶっ倒れるか分かったモノでは無い。

 ならば今は食事をこうしてしっかりと摂っているだけでもマシである。後は睡眠をしっかりと取らせればいいだけだ。


(俺も眠い。見張り役・・・はァ。どうにかならないかな)


 サシャは今回の主役である。休息はしっかりと取らせなければと言う思いと、サシャに見張りをさせて何かあったら俺がソレを後で後悔として背負わなければならない可能性を考慮して、俺は眠気を我慢する選択肢を取らざるを得なかった。

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