711 順調な出発と置き土産的な何か
さて朝である。床に寝たので少々身体の節々が痛い所が出たが、背伸びを一つするとそれらも消えた。
「ちょっと遅く起きちゃったかな?うーん、眩しいねぇ。」
部屋から出て外に出る。そうすれば正面から照り付ける朝日がゆっくりとその光で俺の身体を優しく温めた。
(どこに居ようとお天道様は変わらんなぁ。あ、世界が違えども、も入るなそこに)
当たり前の様に受け入れてしまっているが、ここは異世界である。俺が元々居た世界とは別次元。
しかしそんな世界でもお天道様の役割も温かさも変わりなく、こうして世の中に光を隅々まで届けている。
世界の「基本、基礎」と言うのは結局なにも変わらないのだろう。この世界も向こうの世界も、何ら生ある営みに違いが無い事がストンと心の中に落ちて来た。
「おやまあ、早起きさんだねぇ。昨日はあんなに頑張ってくれたからねぇ。もっと寝ているもんだと思ってたよ。」
村長がそう声を掛けてきた。しかし、そこに居たのは昨日の村長さんではない。
いや、同じ村長さんなのだが、どうやらドラゴンの肉が余程効いたのか、背筋もピンと伸びて、それでいて顔のしわも少しだけ無くなり、肌の状態もすべすべに心なしかなっている。
しかも力仕事ができなくなってきていたと言う村長さんは手に桶を持っていた。しかも水がなみなみ入っている。
きっと朝の水汲みなのだろう。村内の井戸からここまで遠くはないとは言え、それでも重いだろうソレを運んでいたのだ。
「今日は何か調子が良くってね。何だかか身体の奥底から力が湧いてくるんだよ。昨日食べたお肉が良かったんだろうねぇ。ありがとさん。アレは御馳走だったよ。」
「水汲みなら俺がやりますよ。お休みになっていてくれていいですよ。」
「おやおや、心遣いは嬉しいけれど、私もこればっかりは日課でね。水汲みだけは自分の手でやると決めているんだよ。でも、ありがとねぇ。心配してくれたんだろ?でも今日は本当に身体の調子が良いんだよ。」
そう言って家の中に入って水瓶に水を入れ替える村長は背伸びを一つする。
「さあ、朝食の準備をしようかねぇ。今日出発でしょう?朝食を出すから食べて行ってくださいねぇ。」
「お言葉に甘えさせて貰いますね。でも、ソレだけじゃ申し訳ないですから、昨日のお肉を出しますよ、また。」
絶好調に肉が関係しているなら、もっとお元気になって貰いたいからと言って、俺は遠慮しようとする村長を説得してドラゴンの肉を朝食でも出す事にした。
何度も礼を言われつつも村長と一緒に台所に立って準備をする。
やがてその音で目が覚めたのかサシャが起きてきた。
俺が村長と一緒に食事の準備をしているのを見て若干申し訳ない、みたいな表情をしたが、しかし再びドラゴンの肉を俺が焼いている所を見て一気にその顔は無表情に変わった。
さて、こうしてつつがなく朝食も食べ終わり、また再びドラゴンの肉を食した村長はより一層力を漲らせる事となったが、ここまで順調である。至って平和だ。サシャの顔が能面みたいになっている以外は。
そう、「てぇへんだ!テェヘンダ!」と言った慌てて岡っ引きが入ってくる、そんな場面は発生していない。
(このまま何事も無いのが一番、心の平穏にいいのだけれどなあ)
食器の片付けも済み、出発の準備も終わる。この村での短い時間を名残惜しいと感じながらも村の出口へと向かう。
もしかしたらここでタイミングバッチリでサシャに掛かった追撃隊なんかが来るかな?
などと思ったりしたがそう言った事は発生しなかったので、俺は独り心の中だけでホッと胸を撫で下ろした。
こうしてこの村を出る。見送りに来てくれた村長へと挨拶を終わらせる。
俺は「ありがとうございました。」その一言だけを口にして振り返らずに道を行く。
サシャもその時は深く一礼を村長にしてから歩き出した。
「気を付けてなぁ。ホントにありがとうねぇ。」
村長のその言葉を背中に受ける。
次に目指すのはサシャが「味方」になってくれると言った、ミネルと言う人物の居る土地だ。
こうして何事も無く出発できた事に俺は安堵と共に不安を持つ。
(村で何も無いなら道中で必ずエンカウントする。ヤバい。コレ、絶対確定だわ)
きっと絶対、それが何かは今は分からないが、遭遇する事は確実だと俺の勘はずっと警報を鳴らしていた。




