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661  独断専行は時と場合に寄りけり

 その保証書を「失礼」と一言断ってオルドンは手に取り文面を読んだ。


「・・・信じられない事ではありますが、どうやらコレは本物のようですな。して、コレを出して来たと言う事は、これを担保にして良い、そう言う事で受け取ってよろしいか?」


「ドラゴンをやったらちゃんと即座に返していただけるなら。それで、どうしますか?」


 もうここまで来ると俺から余計な事は言わないで良い。後は向こうの判断だ。

 保証書を俺に返しつつオルドンは事情を話し始めた。唐突に。


「文官共は危機感が無い奴らばかりでしてな。今すぐに国の破綻が見えてきている訳では無い、様子見をこのまま続けつつドラゴンを誘導できる方法を開発すればいいと言ってます。馬鹿な連中ですよ。」


 それは要するに緩慢な死を迎える前に、ドラゴンをコントロールして上手い事首の皮一枚繋がった状態を維持しようと言った所なのだろう。ジリ貧ばかりか、そんなものはいつ崩壊してもおかしくない現状であるはずなのに呑気な事だと言える。


「分かりますかな?機を逃す事がどれだけこの国をより危険な状況に曝すのか。この者が私に直接この話を持ってきた時にはあり得ない馬鹿な話だと思いました。ですがね、もうそのような話は今日これまでずっと聞く事が無かった。以前ドラゴン討伐失敗をしてから。だから私は思いなおしました。もうこの機を逃せばこの先この国はこのまま情けないままにドラゴンに好き放題され続けるのだと。そのような事を許せるはずが無いのです。それを文官たちは理解できておりません。」


「もしかして、その文官たちにはこの話を通さずに独断で?」


 ここまで話を聞いてしまうと、このオルドンが独断専行したのだと分かる。

 しかし軍事責任を背負うオルドンには既に分かっているようだ。このままでは国の未来は死ぬと。

 そんな分かっている事に指をくわえて見ているだけなんて事はできないだろう。文官の言う事に素直に従って居続けるだけでは真綿で首を絞められるような国の未来が見えているのだから。

 一歩間違えればそのまま国は崩壊、そんな事になる前におそらくは他国への応援要請を出してドラゴンを何とかしようとするだろうが。

 それこそその時に発生するであろう莫大な被害と賠償と、応援要請に対しての報酬を要求されてこの国は同じく「亡ぶ」のと同じ様相となるだろう。


 軍事における王よりの許可の無い独断専行。コレはクーデターと謗られても仕方が無い位ヤバい行動だ。

 それだけこの国の未来を愁いている。危機を肌で感じ取っている。


「いやはや、今の私は仕事終わりですよ。ここに来た事も文官共は知りませんね。ただこの宿の飯が美味い。新たな店を発掘しに来ただけですわい。」


 ここでちょっと惚けて見せるオルドン。自分は多少融通が利くとアピールしているのだろう。


「それは要するに、正式な契約にはしないって事ですか?」


 それはそれで増々ヤバい、である。ここまでする覚悟のあるオルドンの感じている危機感を、何故文官たちは読み取れなかったのだろうか?

 コレは自分の今の地位を無くすどころか、刑法に触れてでも、犯罪者となろうとも、明るい未来を得るために自身の事を犠牲にしてでも希望を掴もうとしているのだ。

 ここまでの覚悟を聞いてしまい、後ろに立って話の間、黙っているだけだった兵士は顔色を悪くした。

 ようやく自分が金貨を貰うだけでは済まないこの国の行く末を左右する現場に居合わせていると自覚したようだ。


「契約どころか、君がドラゴンを倒す事ができたとしても、その「竜殺し」を大々的に喧伝する事もできない。闇に事実は葬られる。それを知るのはここに居る私と、この者だけ。あ、いや、もう一人いるか。どうするかね?」


 今度は逆にオルドンが俺にそう質問をしてきた。

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