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63  ギャップ

 店を出て裏通りの奥へと進む。エルトスの足取りは重そうだが速度はそこまで鈍いほどではない。

 彼の先導で「ボス」の居る場へと案内させている所だ。


 やがて周りの家屋がみすぼらしい区域に入ってきた。そう、それはスラム街と呼ばれる場所だろう。

 大きな都市、裏道の奥、裏組織、と言えばスラム街。ベタもベタだがここへきて俺は楽しい気分になってきた。むしろ在ってホッとしたような。


 そもそも面倒ながらも「潰す」には色んな理由付けが自分の中にはある。

 大概こういう組織っていうのは「逆恨み」「面子」「諦めが悪い」などで、いつまでもしつこくこちらにちょっかいを掛けてくる。様式美とまでは言わないが、そんな感じだ。

 蛇は頭を潰すのがセオリーだ。それと同じ理屈、と言ってしまうと頭が悪く聞こえそうだが。

 根本を断たねば厄介この上ない。逃げても追跡されると鬱陶しい。


 だから、それらを一気に終わらせるためにエルトスを案内に使う。


(あ、後始末もこいつに全部擦り付けよう!いいアイデアが浮かんだ!)


 それを思い付いた辺りで、道の角を曲がった所に、スラムとは真逆の場違いなデカい屋敷が目の前に広がった。

 煌びやか、豪華、眩しい、絢爛、そんな無駄にゴテゴテのキラッキラッに装飾された外観の、派手過ぎてそのセンスを疑うに申し分ない、そんな屋敷。

 小学校の校庭位に広い庭、それを全て取り囲む塀、入るものを威嚇するような巨大な門。

 これを立てるのにどれだけの金が必要なのか?と正気を疑う。


 確認のため「ここか?」と聞くとエルトスはうなずいた。嘘は無い様に見える。


 門の近くまで来ると守衛がいる。いるにはいるが、何故こんな所にも一目見て「ゴロツキです」と言わんばかりの汚い奴らを配置しているのか?品位を今度は疑い始めてしまった。


「ここを通る案はあるか?」


 そう言ったら、先と同じくうなずいて返してきたので、この先の流れをエルトスに全て任せるために俺は黙った。


「エルトスです。ボスに緊急のお話があります。直接のお目通りを願います。」


 近づいた守衛にそう声を掛けるエルトス。それに答えて「しばらく待ってくれ」と二人の内の片方が屋敷の庭を小走りしていく。


(屋敷の玄関まで遠すぎだろ。不便じゃね?時間かかるじゃん)


 そんなくだらない事を考えていたら、残っていた守衛が俺を睨んでいた。


 その疑惑を孕んだ視線をエルトスが一言フォローした。


「彼は新しい私の側近だ。何か気になる事があったかね?」


 それに納得したのか興味を無くしたように顔をそらした。

 そこに丁度、守衛が返答を持って戻ってきた。


「どうぞ。お会いになるそうです。」


 門が開けられる。玄関に向かう長い距離をただ黙って歩いている間、考え事をする。


(俺が加速して動いた時の現象が何も無いっていうのはどうなんだろうか?)


 当然の事だが、音速の壁は超えると衝撃波が周囲に広がる。その力は辺りを吹き飛ばす程のモノだ。

 なのにそれらが今まで一切発生していないのは不思議だ。物理現象がこの世界で「前世」と大幅に違うという事は無いはずだ。

 だが魔法が在る位なのでそれが作用したりしている可能性もある。また、俺の「力」が「加速」という表現とは全く異なる理屈の可能性も。


 玄関に着くと扉が開いて中からまたしても、どこからどうやって見ても「荒くれ者」が出迎えた。


「お部屋までご案内いたします。どうぞこちらに。」


 綺麗な一礼をして先導してくるので呆気に取られた。


(覚えさせれば丁寧口調に礼節はできるようになるんだな。見た目のギャップがデカ過ぎてビックリした)


 ここへきて、かなりイメージしていたのと違うモノだったので驚きが隠せない。

 そればかりかエルトスが結構高い地位にいる奴っぽい事に感心した。

 アポを取らずに直接突然訪ねてきたのに面会できるのは話が早くていい。


(こんな中世ヨーロッパ風の屋敷だからスーツをパリッと着た老執事が出てくるモノだと思ってました。)


 カツカツと足音が響く廊下はまさしくイメージ道理で、飾られている美術品なんかもケバイ物ばかりが並んでいる。


 これから裏組織のボスと対面するのに、俺はそんな斜めな事を思いながら歩く。

 そうこうして一つのドアの前で案内役の男が止まり「こちらです」と一礼して去っていった。

 それを見送り、エルトスはドアをノックする。


「ダモー様、エルトスです。入ります。」

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