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622  関係を絶つ

 客間に通されて待つ事、十分弱。セルラムはあのチャイナなドレスで現れた。どうやら俺に色仕掛けをする為に着ていたのではなく、普段からこの格好がデフォルトの様である。


「ありがとう。サイトー、あなたのおかげで助かったわ。それもかなりの借りができちゃったみたいね。今回の報告を纏めさせたものを読ませてもらったけれど、あれだけの魔獣を完全な状態を残して仕留めちゃうなんて、想像していたよりもおっかないのね、サイトーは。」


 おっかないと言う評価は誉め言葉なのだろうか?まあそこら辺はスルーだ。


「報酬の件なんだけど、変更したい。良いかな?借りを返すと思って聞き入れて欲しいんだけど。」


 俺はここで話を単刀直入で進める事にした。世間話は俺には必要無い。


「何かしら?もしかして額を上げてくれとか?それ位ならお安い御用よ?」


 太っ腹であるセルラムは俺が報酬をもっとくれと言うのだろうと考えていたらしく先を制してきた。

 しかし違う。俺の求めるのは逆だ。俺の事情を彼女は知らないから当然か。


「金は要らない。その代わりもう金輪際会うことは無い。今回限りだ。この先もう二度と接触してこないでくれ。こうして知り合ったのは確かに何かの縁かもしれないが、今回の事に旨味を感じて次も、また次もと依頼をされたくない。」


 この言葉に沈黙が続く。部屋にはベルーメも同席していたが彼女が口を出す様子は無い。

 セルラムは大きく息を吸ってから口を開いた。


「・・・分かったわ。この店を出たらサイトーはもう、うちとは何の関係も無い。それでいいのね?」


 俺はセルラムに頷くのみで返す。


「なら今はそうね、せめておもてなしさせて欲しいわ。お茶も茶菓子も高級なものを用意してあるの。ゆっくりして行って。」


「いや、もう出る。用意してくれてた事には嬉しいが、いつまでもグダグダし続けるつもりは無いから。こんな要求をしたんだ俺の方から。ならいつまでもここに居続けるのは図々しいってものだろ?」


 席を立ってドアへと歩く。その後ろからまだ引き留めようとセルラムは言葉を投げてくる。


「あら?私は気にしないわ。疲れているでしょ?もっと気を抜いて甘えて欲しいわね。」


「そっちが良くても俺が嫌なんだよ。落ち着かない。」


「ふふふ、それなら仕方が無いわね。ベルーメ、お見送りをして。」


「見送りなんて大層なものも要らない。普通に出て行くよ。」


「最後までつれないわね。」


 残念そうなセルラムの言葉を背に、こうして俺は店を後にした。


(これでセルラムが今後、俺に依頼をしてこない様にできた。さて後は残りの時間はどうするかね)


 これに俺はここに来る途中にあったドワーフ国から仕入れたナイフのやり取りをしていた武具店に行ってみようと足をそちらに向けた。

 もちろんドワーフ国の情報を貰おうと思って。


「行き先は決まった。次はドワーフ国だな!」


 どんな特色がある国なのかを想像しながら歩く。そうして歩けば目的の店にすぐに着いた。


「へい、いらしゃい!何をお求めですか!うちは武器も一流、防具も一流どころの工房と契約してますからね!何を買ってもお値段以上の物ばかり!ってなもんですよお客さん!」


 お値段以上、ニ◯リ。外で客引きしていた店員のそんなうたい文句に俺は興味がちょびっとだけ出たので品揃えを見てみようとその店の中へと入った。

 ドワーフ国の話を聞くだけなら客引きしているその店員に話しかければよかったが、この店員は先のナイフのやり取りを客としていた者と別の人だった。

 どうせ話を伺うならその人が良いな、と考えてその人が居ないか俺は店内をぐるりと見回した。

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