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603  独占と競争

「待って頂戴。分かったわ。私の負けね。簡潔に話すわね。ある魔獣を狩ってきて欲しいの。」


 俺はそれに沈黙を返す。これだけでは話にならないから。


「順を追って話すわね。それと、私は商人だから、嘘は言わないわ。それだけは守る。信じて頂戴。」


 ここから大分離れた山岳地帯にどうやらその魔獣がいるそうだ。

 この情報はまだどこにも広まっていないらしく、その魔獣を独り占めするために慎重に動きたいらしい。


「で、討伐隊を結成したいのだけれど、あんまり派手にやると勘づかれて邪魔してくる輩もいるはずよね。だから大っぴらにあまり動けないの。」


 商売敵と言った所だろうか。この情報は他に知られてしまうと「競争」ってモノに変わる。独占は不可能になる。

 そう、そこまで慎重にしたい程の大物と言う事。


「それでね、バルにその件を依頼しようと機会を窺っていたの。でも、彼は私に利用される事を嫌ってる。もちろん利用するって言ったって相手の利益も充分見込んでそれを入れた交渉をするわ私だって。相手が一方的に損するような「利用」はしない。けど、それも分かった上でも彼は私の依頼を易々とは受けてはくれないの。」


 読めてきてしまった。そんなバルガが俺を「イチオシ」する。そしてキャロとの模擬戦。

 いわゆる、俺に目を付けた、だろう。


「もし、バルが受けてくれたとしても、素材がどんな風に得られるかは分からない。バルが一人で戦って勝てはするレベルの魔獣だとこちらでは判断しているの。大っぴらに動けないなら一人でコッソリとここを出て狩りに行くしかないから完全単独になってしまう。」


 要するに勝てはしてもその時に魔獣に与えた傷如何で結局は売り物としての価値が下がる素材にしかならない可能性。

 派手な行動はできないからフォローして上手く戦うだけの戦力が揃えられないと言った具合か。


「そこでサイトー、貴方に頼みたいの。あの強さを見て確信が持てた。貴方ならまだこの都市で顔も売れていないから動いてもこちらの計画はバレない、きっと。」


「キャロに言った事は嘘だったって事?」


 俺はそこを追及した。意地の悪い質問だと我ながら思う。


「嘘じゃないわ。大闘技会は開催される。そこにキャロも出場させるわ。けれど彼女あんまり乗り気じゃ無かったの。出れば出たで勝ち進むわ絶対に。それだけ彼女強いもの。だけど、少しこの頃たるんできていたから、あの挑戦者はいい刺激になっていたかもしれないけど、それじゃ足りなかった。」


 全部計算に入れている。これには流石に俺もビックリだ。


「それとやっぱりあなたがベルアードを狩った張本人だと言うのが一番大きいかしらね。だって四体を貴方が一人で倒したのでしょ?あんな綺麗な完璧な倒し方、今までに一度だって無かったわよ?顔面を一撃、でしょ?どうやったの?助けられた傭兵から話を聞いたわよ?」


 どうやらベルアードの皮をセルラムが購入した時からこの流れは始まっているようだ。

 そしてバルに最初頼もうとしていたと言う事は彼に監視を入れて動きを確認していたって事。

 魔獣を見つけて狩る計画ももっと以前からあった物だと言う事。

 そしてあの助けた傭兵二人の話を仕入れていたと言う事は、もう俺がこうしてセルラムと出会う事は必然であり、ここにこうして魔獣狩りの話を申し込まれているのは偏に彼女の「腕」である。

 俺の「特徴」もきっと最初から知っていた。そして俺に今回の狩りの話の受け入れをスムーズにさせるためにスキンシップを多くして色仕掛けを掛けていた、と。


「隙が無いなぁ・・・俺じゃ何も敵わんわ~。どうせコレ断っても何もその後に良い事待っていないパターンだコレ・・・」


 俺はそうして小声で独り言を呟くしかなかった。

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