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59  三者

 倒れ伏した男たちからはまだ血が噴き出している。その勢いは衰えていない。

 バシャっと水たまりを勢い付けて踏んだような音に気付いて、見張りをしていた二人が戻ってきた。

 だが目に入った光景に小さく悲鳴を上げて硬直している。

 だが思考停止からすぐに復帰したようで、呆然自失で立っている男に声を掛けていた。


「エルトス様御無事で?!」


 濁声男は尋ねているが返事は無い。心配された当の本人は口を大きく開いたままで固まったままだ。

 無理もない。目の前で何が起きたかも分からず、気付けば部下は血達磨になって倒れたのだから。


 ≠==  ≠==  ≠==  ≠==


 エルトス。彼はとある組織の幹部だ。言ってしまえばこの都市の裏側の人間。

 そんな彼はこの裏組織で地味に地位を上げてきたただの「一組員」だった。

 下っ端の頃は貯めた金でゴロツキを束ねて悪事を働いた。

 暴力で金を弱者から巻き上げる、高利貸し、野盗の組織化、武器の裏取引、など、小さな事も大きな事も。

 コツコツ上納金を出して地道に階段を上がってきた。自分の手だけは染めずに裏から指示を出して。

 そして二年前に上役が病に亡くなり、その後釜に収まったのが彼だった。

 だがしかし、彼にとってはただ単に、部下が増えたその分、以前より自由に手広くやれるようになっただけ。

 自ら動かずとも指示だけで済む。それは役員の椅子に座る前から変わらない。


 そんな彼がここに来てしまったのは現場を散歩気分で見ようとした気まぐれだ。

 今回の取引の「場所」の確保は、商会の割符がこちらに回る様に裏工作していたのにも拘わらず、部下がそれを取って来れなかったタイミングも重なっていた。


 本当は商会長が事前に事態を把握し一計を図ったからなのだが。

 その事をエルトスは知らない。


 ≠===  ≠====  ≠===



 商会長、ボーナッツ。彼は以前から「裏」を警戒していた。商売の邪魔とハッキリと考えていた。

 それは商会の被害に「裏」が関与している件数が近年伸びてきていたから。

 今回の割符の件も一人の商会員への不信から見つかっていた。

 いかにも商いなんぞしていないだろう空気を纏う男を見かけたのが行動に移すきっかけになった。

 それはボーナッツの長年の勘としか言いようが無いモノで、その男を初めて見かけた時から内部調査を内密でし始めていた。

 その読みは当たる。ここ一年前に職員として雇った一人が「裏」と繋がっている可能性が浮上。

 そいつは女で、書類業務をさせればテキパキとこなす敏腕だった。

 ボーナッツは「動き」出すまで泳がせる事にした。

 何時も通りに仕事をさせ、何時もどおりに生活させる。だがその裏で監視は怠らない。


 そして今日、割符の受付カウンター業務にその女職員が入るシフトになっていた。その日だけ、その日、一日だけ。

 これまでその女に全く割符に関与する業務を回さなかったにも拘らず、今日に至って、その女が割符の受け渡しをする。

 彼は朝一でそれにピン!ときて、その日の配る割符のチェックをし、商会が開く直前に入れ替えを行った。今日、女が受け持ちで配るはずの割符を。

 そしてこれだと確信した「場所」をアリル嬢に回るよう調整したのが何を隠そう彼だった。

 その「場所」は本来なら立地が最悪で死蔵しているものだった。それに「裏」が目を付けたと推察の下。


「さてはて、ランドルフの見解はどう転ぶかな?」

 面白がるように言葉を口にしたのは、前日、ランドルフと手合わせした用心棒の青年の事。


「裏」にダメージを与える、それ以外ではあの青年が面白い事を起こす事を望む、そんな腹の内が黒いやり手、それがボーナッツだ。

 だが今は知る由もない。

 そんな思惑でいられたのも短い間で、後々、付けていた監視者からの報告で、彼は顔を蒼白に染める事になるなんて。


 ≠===  ≠==  ≠===



 傭兵ギルドで激震が走っている。その原因になった情報にギルドマスター、副ギルドマスターは目を見開いた。


「おい!それは本当なのか?」


 ギヌベルトは机をバン!と叩いて勢いよく立ち上がる。

 報告を受けたが、耳に入った言葉が信じられず、反面、それが本当なら厄介事が一つ減った、と喜ぶ。

 その報告の中心になる男は、かつて傭兵ギルドに所属していたが、悪事を働くために除名処分をしてどこも雇わない様に手を回し、各ギルドにはブラックリストに入れていた男。

 そいつの名はゾルデン。今まで散々悪行を働けど一向にお縄になってこなかった。それが今、たった今まさに死亡したと都市警備の衛兵詰所から情報が入ってきたのだ。

 そこへ冷静な疑問が投げかけられる。


「それにしたって奴の腕は確かです。原因は?事故?病?」


 ヴィルマは分析のために経緯を知ろうと報告の先を促す。

 力ずくでも捕縛できずにいた暴れん坊を殺すとなれば、災害に巻き込まれて、とか、はやり病、とか、はたまた天罰などの逃れられぬ運命など。

 そうじゃ無ければ死なせるには至らないと思える奴だ。人の手で殺される所が想像できない。


「実力に悪運も付いていたような奴だった。簡単に死ぬ玉じゃない。」


 ギヌベルトがう~んと唸り、二人が未だ半信半疑な所で、その「答」を報告者はしはじめる。


「ヤった者はアリルと言う女商人の用心棒の青年だという事です。商会で付ける用心棒では無く、個人契約だそうです。」


 その名に、どこかで聞いた、と彼は目を細めたが、次の瞬間には声を大きくして驚きの言葉を紡ぐ。


「昨日の慰謝料の!あの時の青年か!」


「急いで使いを飛ばして調べさせます。」


 ヴィルマはそう口にして颯爽と部屋を出て行った。


「よし、ご苦労。下がっていい。」


 ギヌベルトがそう告げると、報告者はその場から霞の様に消えてしまった。


「俺の勘は外れてはいなかったか。後でヴィルマに嫌味を言ってやろう。」


 それは冗談を口にしている者の表情では無かった。


「何かの前触れなのか?これは・・・」


 不吉な考えを横に置き、ギルドマスターは散らばらせてある間者から情報を集めるため、号令を出すのだった。

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