57 情熱
そうこうしているうちに、後詰で来たリヤカーみたいな台車を引いて現れた衛兵二人が合流する。
「後にもう一度、確認のために呼び出しをするかもしれません。その際は申し訳ないが衛兵詰所に来ていただく事になるかと思います。では。」
そう一言残して、動かなくなったゾルデンを6人がかりで持ち上げ、台車に載せてゆっくりと去っていった。
それを俺は「死体ってすごく重いんだなー」と呆然としながら見送った。
そんな横から「ハァー」と長い溜息を吐いたアリルが大きな声で言う。
「よし!商売を続けましょう!」
そんな彼女を見やると顔色は血の気が戻ってきていないのか青い。
それでもカラ元気なのか、商売魂なのか、気丈に振る舞うその姿に尊敬する。
(すげえ情熱だわ・・・)
そんなこんなで二回も絡まれた訳なのだが、その後はずっと客が来ない。一人も。
まず立地が最悪の何物でもないので、自分が店番になり、アリルが通りに出張って声掛けをして呼び込みもする。
だがそれでも人は来ない。彼女が言うには、興味を持った客がその位置に店を構えていると知ると、皆逃げるように去ってしまうのだと言う。
彼女は流石に表情を曇らせて弱音ともつかない言葉を漏らす。
「この場所って曰く付きって事なんでしょうか・・・」
諦め交じりで俯き始め「運が、無いのかな」とポツリと小さく漏れたのが聞こえた。
場所の割り振りは商会ではランダムに出されていて、この様な「ハズレ」になる事もしばしばあるらしい。
後日に訴えを出して場所取りをし直す事もできるらしいし、そもそも普通の商人なら「即チェンジ」案件だそうだ。その場合は手間、期日、手形再発行の料金もかかって損益に当然なる。
商売初日にそんなのに当たるとは思いもしないだろう。その落ち込み様が見ていられなくなったので励ましの言葉を言ってみた。
「あきらめたらそこで商売終了ですよ。」
「そうよね!いくら何でも私の仕入れた品の良さを知ってもらえれば、評判でお客がきっと来るはず!気合入れなくっちゃ!」
(何この早変わりっぷり・・・あんな一言でコレとかどんだけポジティブ・・・)
ここでちょっとした疑問が出た。それを聞いてみる。
「店の位置をこんなに奥じゃ無く、通り近くにしたらダメなんで?」
その質問に「あー」と脱力しつつ彼女は説明しはじめる。
「それができないと言いますか、何と言うか。罰則があって。しかもそれすると商会でも信用がガタ落ちしちゃうんです。そうするといい話が回ってこなくなったり、商人の寄り合いに参加できなくなったり。利益につながる「糸」を軒並み自ら切る事になるんですよ。無理ですね。」
「バレなきゃいいって訳でもなさそうですね。監視がいそうですね。」
「評価員っていうのがあるらしくて。信憑性の高い噂ってだけなんだけれど。誰もそれを見た事が無いというか、何と言いますか。かなり前に、不正をした商人のその証拠が商会に届出人不明で送られてきた事があったそうなんです。その商人は登録永久抹消、役人に捕まる、なんてことがあって衝撃が凄かったです。そんな事もあって噂ってだけじゃ済まなくなってまして。」
アリルはそんなコワイ話を、客が来ないヤキモキした気持ちと共に吐き出す。
その後、今日の所は、とあきらめかけた位の時に「三回目」が現れる。
だがその「客」の様子は明らかに前の「二回」とは纏う空気が違っていた。
そしてこの出来事よって、今後のアリルの人生に大きな影響を与える結果に、「俺が」してしまうのだが。
この時、俺は「違うタイプのチンピラが来たなー」くらいにしか思っていなかった。




