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55  二回目

 それは身の丈2メートル近い背の男。

 筋骨隆々、髪はボサボサ、荒くれ者の空気を纏う。

 これでもかと言わんばかりの、これまたベタな容姿だった。


 アリルは一瞬、顔を強張らせた、が。


「いらっしゃいませ。良い品を揃えております。どうぞ見て行ってください。」


 商売人根性で声を捻り出していた。

 それが少々上擦ったモノになってしまったのは致し方無いだろう。

 商会で会ったランドルフより、こちらの男の方が目つきが悪い。

 ただの少女がそんな奴が近づいてきてビビらないはずが無い。


 ベタな「そんな奴」だから俺は、男が入ってきた側の道を塞ぐよう、既に立ち位置を変えていた。

 ここはついでに「袋小路」である。一応用心棒だから警戒をしておく。

 品を盗んで逃げられたりしない様に。


 まぁそんな事になっても追いつけるけど。万が一が無い様に。


 そんな俺の動きにその大男は気付いていない。むしろ最初から俺の存在自体、気付いてないみたいだった。

 それは大男が見えて即座に「加速」状態で動いたからだが。


 大男は並べてある品をじっくりと物色し始めて、その中でも上から数えて高い順に3つの装飾品を手に取り、「こいつを貰おうか」とおもむろに取り出した袋へ無造作に詰め始めた。


「ありがとうございます。御代は」


 言い終わる前に店を後にしようとするそいつに声を上げてアリルは言う。怒りを込めて。


「お金を払ってください!」


 言われた方は通りに出ようとした歩を止め、振り向きざまに面倒くさそうに言い放った。


「店を叩き潰されないだけありがたいと思え。」


 ぶっきらぼうに、かつ、慣れた言葉の様に、滑らかに口から発せられている。


「その発言は強盗と捉えて構いませんか?いいですかね?」


「あぁ・?何だてめぇ・・・」


 そう吐き捨てた大男はこちらを睨んでくるが、そんな視線を受け流して忠告しておく。


「強盗類の犯罪者は、被害を受けた当人が直接手を下す時、現行犯の場合のみ処罰裁量の判断は自由と聞いてまして。あなたは、死んでも構わないですか?」


 この場所に着くまでにそんな話をアリルから振られていた。

 俺がそう尋ねたら、そいつは聞く耳持たないようで、逆に聞き返されてしまった。


「てめえは誰だ?何時の間にそんなところにいやがった?」


「彼は私が雇っている用心棒です!強いんです!御代を払うか、さもなければ商品を返してください。じゃないと後悔しても遅いですよ!」


 アリルはこれまで、俺がどんな「動き」をしたかは捉えられてはいないが、野盗や三人組の無頼者を吹き飛ばした「事実」は分かっていた。

 その信頼が言葉の端々に滲んでいる。これに俺は少し嬉しいと感じた。

 何せ両親以外で、こんなにも俺を信じてくれた人は、この世界に来て初だったから。


 だがそれを笑う大声がその場を満たす。


「ギャハハハハ!こんな生っちょろいクソガキが用心棒だぁ?冗談もここまで来ると大概だな、えぇ!おぃ!何ならこいつを殺す手間を御代替わりとして置いてってやるぜ!」


 自分の腕前は奪う装飾品3つ分だとでも言いたいのだろう。

 そんなジョークにもならない発言にこちらも対応を決めた。

 だが、慈悲も掛けておく。最終確認としてこれだけは聞いておかないと。


「あんた、いつもこんな事やってんのか?」


 シンプルな質問。イエスか、ノーか。答えは二択。

 だけど「ノー」と答えても今までの態度と、慣れた動きに脅し文句で、普段からこんな事をしていると確信している。

 何と答えようと、金を払うか品を返すかしなければ、一発ぶん殴るのは変わらない。

 だったら何故、質問したのか?

 少しでも「何かしら」がそいつの中に残っているのか、確かめるためだ。


 だけど返ってきた答えは、面倒くさいとでも言う様に吐き捨てられた。


「弱いやつらの戯言なんて耳に入らねぇなぁ~。悔しかったら俺様をヤってみな!」


 悪徳顔をこちらに向けて、問答無用に剣を抜き放ち、大上段に振りかぶってきた。


 ===  ===  ===  


 こんな奴は、俺の「モノサシ」で世の中に要らない、と判断する。

 世界の大きさから見たら、ちっぽけな俺ごときが「世の中」を狭い了見で断ずるのは傲慢だろう。

 けれども、俺は俺の小さな目の前の「世界」を自分の思想に基づいて勝手にさせてもらう。

 これもまた「自由」、それもまた「自由」というやつだ。

 前世ではそうもいかなかったが、今はそれを行う事のできる力を俺は持っている。

 調子に乗っていると揶揄されたら、それもそれ否定もしないが、ここは「日本」じゃない。

 そんな世界で以前の常識やら良識を持ち出す方が「危うい」。


 だから「自分」を基本にするのだ。

 この男の様な悪い意味で「弱肉強食」「唯我独尊」は大嫌いだ。

 生殺与奪をスナック菓子一粒より軽く見るような奴は。


 前世でもいたこの様な奴らが起こす「悪い」ニュースに憤りを感じていたこともあって、拳に力が入る。


 頭上から、遅すぎてイラつくほどのスピードで振り下ろされてくる剣筋を、半身捻って避ける。

 目の前を剣先がゆっくり通り過ぎる間、捻った体に力を込めて、バネを縮めるかの如く腕を引き絞る。


 大男の体勢が前のめりになって下がってきた所で、顔面のど真ん中目掛けストレート一撃。



 ====  ====  ====


 ドサリ、そんな音が静かにする。

 今の瞬間まで俺を殺そうと楽し気にして剣を振り上げていた男はぶっ倒れた、前のめりに。

 後悔する事もできぬまま。いや、この男は「今回だけ」後悔はしても、これまでの行いも、これからの先も、改めるなんてのはしなかっただろう。

 だがそれも、もう詮無き事だ。男は死亡してしまっている。後も先も、もう無いのだから。


 奪われていた品の入った袋を取り上げてアリルに返す。

 若干だが、彼女の表情は引きつっている。


 それを見て俺は提案する。

 こんな場所ではまともな商売は土台無理な事なのだから。


「この後はどうします?ここじゃ商売あがったりでしょう。もう今日の所は閉めますか?」

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