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538  縄張り争い

 それは当然とか、必然とかだったのだろう。この縄張りにグリフォンが居なくなってから幾日立ったのか。

 自然とは厳しいもので、居なくなった場所には次に入るモノがある。それが今ここに顔を出してきたのだ。

 新たなこの場所の住人となった別のグリフォンが縄張りを主張しにやって来た。

 以前の縄張り主から見たらこの場所を横取りしに来た相手。そして新たにここに居を構えた方からしたら侵略者。

 そうなれば互いにどちらがこの場所の持ち主か決めるために力比べとなるのは自然動物の掟と言った所か。


「クルルルル~グワァ!」「キェぇぇエエエェ!」「グルルル!グワ!」「くえぇ!くえ!クエェエエエ!」


 グリフォン二匹の雄たけび?気勢が上がる。けたたましい事この上ない。

 上体を持ち上げてその鋭い前足で互いを威嚇、牽制し、時に相手にそのまま覆いかぶさろうと激しくぶつかり合う。

 一分ほどしてもどちらも力が互角のようで決着は長引きそうだった。

 なので俺はここで間に割って入る。互いに睨み続けて体力を回復しあって様子見しているその真ん中に入って手を左右に広げて両方のグリフォンの前に突き出す。


「あー、すまないな。ここは以前こいつの縄張りだったんだ。だから引いてくれ。何て言っても聞いちゃくれないんだろ?だったら俺が相手をしてやる。ケリを付けようか。」


 俺の言葉を通訳してくれるかのように「クエ、クワ!クエくえ・・・クワッ!」とグリフォンが相手を睨みながら鳴いている。

 それを受けて相手のグリフォンが「クワ~、クワ~!」と返事をするかのように鳴いた。

 だけど俺はそれを「馬鹿にされてる」と理解できた。


(何でだろうなぁ~。どう言う訳か、何となくそんな感情が伝わってくるんだよねぇ。勘違いとか思い込みとかじゃ無いんだよ、ホントコレ)


 馬鹿にされた事を怒ったようにこちらのグリフォンも「クワ!クワァ!」と威嚇をし始めた。

 何だろうか?コレも俺の「神の力」為る物の恩恵?「聞き耳頭巾」効果だとか?


 そんな日本昔話を思い出した所であっちのグリフォンが俺と向かい合い、一捻りにしてくれんとばかりに前足を高く上げて振り下ろしてきた。

 開始の合図も何も無い。ここは厳しい自然の中。弱ければ死に、強ければ生きる。単純明快な世界だ。

 だからこの行為も肯定される。そもそも自然とはどんなモノでも受け入れるからこそ豊かで、それでいて厳しいものなのだ。


「でも動物虐待はする気は無いからね。このまま潰されるつもりもないけど。」


 俺は振り落とされて迫る前足の指一本をガッチリと受け止める。爪の部分を引っかけようものなら今着ている服が破けてしまう。それはできない。

 そもそも避けると言う余計なマネはここでは無粋だ。今は「力比べ」をしているのだ。だったら相手の正面からのその自慢を圧倒的な力で受け返さないと相手も納得しない。


「あー、まともに受けても俺自身に影響はないけど、足が地面にめり込む・・・靴の中に入った土って不快にならなくなるまで入った土を取り除くのに結構手間かかるんだよなぁ。」


 そこが気になった俺はこれ以上足が深みに嵌らない様に、よいしょと勢いを付けて掴んでいたグリフォンの指を押し返す。

 その力になすすべもなくひっくり返りそうになっているグリフォンに追い打ちをかけるように、そのまま前に一歩前進した。もちろん掴んだままだ。

 押され押されて軽くたたらを踏んでいたグリフォンは掴まれている指を離そうとしてグイグイ引っ張るが俺はびくともしない。

 押してもダメ、引いてもダメ、力量差を感じ取ったグリフォンが今度は嘴を使って俺へと噛みつこうとしてきた。


 相手の思惑に乗ってあしらうのもまた力を示す上で効果的だ。まだ諦めていない行動を取る所はあっぱれと言っていいのだろう。

 自分の生きる場所を得る上で、自らの死を覚悟してでもソレを得ようとする事は自然界では余程の事が無い限りしない。

 今のコレは只の力比べ、殺し合うような真似はしない。だからだろうか?相手のグリフォンは焦ってはいるものの、まだ俺を見下している様に思えた。


(なんだか「まだまだ俺は本気じゃない!」って感じで嘴をこっちにけしかけてきたけど・・・)


 それを俺は掴んでいた指を離して迎撃する。迫る嘴の先を軽く裏拳で逸らす様に叩く。

 バコ!といった妙な音をさせてグリフォンの顔が横へと仰け反る。

 力を込め過ぎたか?と思った。そのままグリフォンが倒れてしまったから。まさか死んでいないよな?と恐る恐る瞳を覗きに近づく。

 すると目を回しているようで俺へと視線が合っていないみたいだった。どうやら脳震盪を起こしたらしい。

 じっと観察して正気に戻るのを待つ。すると十秒ほどしてから目をぱちくりして俺の姿をその目に映すと取り乱したかのようにゴロゴロと地面を転がり俺から離れた。自分の身体が汚れるのも構わずに地面に身体を擦らせながら。


「ク・・・クェェ~」とまるで「ゆるしてぇ~」と情けない懇願をするかのように鳴くグリフォン。

 どうやら俺の勝ちであるようだ。そのまま手を出さずに観察しているとゆっくりと立ち上がって何処へともなく飛び去っていった。

 こうして再び縄張りを取り戻した事でこちらのグリフォンへと目を向けたのだが、どうやら俺の事を驚いた表情で見ていた。

 口をあんぐりと開けてぼーっと俺を見つめている。


「ん?何だ?どうしたどうした?俺の顔になんか付いてるか?」


 短い間大きく口を開けて俺を見つめていたグリフォンはやっと「クエ!」と正気を取り戻したのか俺に平伏してきた。

 伏せの状態でその頭を深く下げる。顎を地に着けてこちらを上目遣いに見つめてくる。

 どうやらこちらのグリフォンも俺の「強さ」を見誤って?いたようで認識を新たにしたらしい。

 そう言えばこのグリフォンには俺の戦っている所を見せていなかった。

 なのできっと今まで言う事を聞いてくれていたのは「命の恩人」であるからだったのかもしれない。

 こうして俺はグリフォンの鼻先を撫でてやって言い聞かせる。


「今まで通りでいいから。いきなりそんな態度に変わっても俺が戸惑うわ。元に戻ってくれよ。」


 そう言うと、グリフォンは立ち上がって俺の顔を一舐めしてきて親愛の情を表すのだった。

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