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53  一回目

 彼女はもうウンザリしかけていた。

 だが事前の気合の残りがまだ有るのか、乗り切れているみたいだ。


 そのいきさつを説明しよう。


 最初に、まず裏手通りに入り、角を少し入った所がアリルにあてがわれた場所だった。

 俺の予想は当たっていて、


「いかにもな」「チンピラが」「スラム街的な」「治安の悪い」「通りに対して見晴らしの利かない」


 そんな場所だ。あまりにもアンマリな場所。

 アリルもこれには参った様子を見せていたが、へこたれなかった。


「やっとなんです!屈したり・・・しないもん!」


 屈しそうな膝を必死に伸ばし、情熱の力で立ち上がった。


 俺から見ればこんな場所は、罰ゲーム、もしくは、ハズレ、だと商会に苦情を申し立てて場所を変えてもらうだろう。

 何かの間違いじゃ無いのか?と捲し立てて受付に迫るだろう。


 だが彼女は、この事に自分で「グダグダ」を商会で起こす気にはなれないみたいで、何かを堪えるように「グヌヌ・・・」と呻きつつも、カバンから簡易型の組み立て屋台を取り出した。


「さあ、手伝ってください。やりましょう。やってやりましょう!」


 ちょっと投げやりにも捉えられる掛け声に心配は尽きない。


(まあ、ここで引くのも、押すのも、どちらも判断に困るからね・・・)


「この程度」をクリアできなければ将来でっかくなれない、もしくは、冷静な判断で理詰めに「引く」危機管理でリスク回避か。

 ここでの自らの進退は、この先の彼女の商売スタイルを決めかねない重要決定だ。


 それを彼女は「押し通る」と決めた。それはいい。

 俺も微力ながら力を貸すつもりだ。

 だが、一番の懸念がある。あり過ぎる。そうまさに。


(シチュエーションがテンプレ過ぎる・・・あと、状況も・・・)


 嫌な予感どころでは無いだろう。確定事項だ。

 それが証拠にもうこれだ。


 ----  ----  ----


「ようよう、ここらじゃ見ないお嬢ちゃんだねぇ。」


「いらしゃいませ!うちの品はどれも良い物ばかり。手頃な値段。損は一切させません。」


 さあこれから!と商品を並べた所で、「一回目」のお客様ときた。

 アリルも一番最初の客に喜んだのも束の間。

 次の瞬間には訝し気な表情に変わる。


 それもそうだ。

 その客は三人組で、いかにもな汚い見た目、装備もボロで、意地汚さそうな顔だったからだ。

 それはアリルを襲った野盗と共通している所ばかり。いやそのものだった。


 それはそいつらの次のセリフで決定する。


 即座に「商売にならない」と理解できてしまう。


 交渉の余地もない、下らないセリフ。


 商品に一瞥もせず、値も聞かず、いきなり何の権限が在ってそのような言葉を吐けるのか?


「この店ごと全部貰おうかぁ。なぁーに、御代はお嬢ちゃんの命で構わねえぜぇ~。」


 そう言い、三人組はニタニタ笑って臭い息を撒き散らす。


(良かった。分かり易い小悪党で)


 道理の通らぬイチャモンで絡んでくるバカよりよっぽど扱いやすいだろう。招かれざる客ではあるが。

 小者感満載のチンピラ加減で、内心で少しホッとしたのはアリルには悪いと思うが。

 こんなのをあしらうのが、上手くなる事は褒められた事じゃないし、慣れたくもないが。

 だが今、俺は彼女に雇われている用心棒だ。ここは出番なんだろう。


 そこに溜息を漏らしながら自然と言葉が出てきてしまう。


「最初の客が、客じゃ無いとか。たまらないなぁ・・・」


 このセリフは俺ではなく、最も思ってるのはアリルだろう。

 だけど商人としての矜持なのか、彼女は引きつりながらも、ニコニコした「仮面」を付けて我慢してるようだった。


「おいおい、そう落ち込むなよ。ここの品は俺らが全部、有効活用してやっからよぉ。」


「お断りします。」


 綺麗に、かつ、はっきりと耳に響く声で断りの返事が返る。

 その声の主は先程から笑顔の表情を崩さずにいる。


 さあこれで引き下がってくれていたら、用心棒なんて要らない訳だ。

 ゴロツキ三人組は「オウオウオウ!」と詰め寄ってくる。


(何だこの様相は・・・ホントにこんな「決まり事」みたいな展開・・・)


「痛い目見たいようだな!おい!やっちまえ。こんなガキと小娘潰すぞスグに。」


 ====  ====  ====



 それを合図に俺は「加速」して、真っ先にそれを言った男の顎先をデコピンでなるべく「優しく」弾く。


 あくまでもこいつらを殺す気は無いのだ。


 だけど今のでたぶん顎が「ヤバい」事になってしまっているだろう。

 そこまでは面倒見切れないので、自業自得と受け入れろと言いたい。

 相手に被害を及ぼそうとしたのなら、嫌と抵抗されて返り討ちに遭う覚悟もまた、持たなければならないのだから。

 深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗いている、だったか?

 この手の類の輩はそこら辺が希薄だ。だから中途半端に追い返すと逆恨みする。

 プライドが、とか、面子が、とか、最初からそんな御大層なモノを持ち合わせてなんていなかったクセに、それらを持ち出してくるのだ。

 自分達の弱さを「認めたくない」が為に。

 単純に「バカ」である奴が大半だろうが。そこもテンプレなのだろう。


 ここでは用心棒の名のもとに力を振るうついでに、徹底的に練習台になってもらう。

 力加減の、だ。


 ===  ===  ===


 三人横並びのうち、真ん中の男が吹き飛ぶ。悲鳴も無く。


「!!!ど、どうなってやがる!?」


 吹き飛んだ男の立っていたその位置の前に、いつの間にか俺が代わりに立っている。

 デコピンするには近づかなきゃいけない。

 そしてそこでいったん「加速」から帰ってきたのだ。


 別にそのままの状態で全員「やって」もよかったが、威力の確認と、後の二人が対応をどうするか気になったから。

 引けばよし、引かずもよし、もうここまで来たら変なテンションになって「テンプレ」を最後まで体験しようと思ってしまった。


 吹き飛んだ結果は3メートル程、やけに滞空時間が長かった。体感的にではなく、実際に。


 そいつが地面に着陸したのでその「跡」を観察した。


(かわいそうに・・・顎が粉砕・・・南無阿弥陀仏・・・)



 相手はかろうじて生きていて、死んではいなかったが、思わず自分がした事とは言え、その惨状に恐ろしくなり、かつ、同情してしまった。


 同じくして残りの二人の内の一人が叫んだ。


「こ、このクソがぁ!」


 腰に下げていた剣を抜こうと手を掛ける、が、そんな事は俺がさせない。


「とりあえず落ち着いてくれませんかね?」


 そいつが剣に手を掛けてる腕を上から押さえる。

 もちろんそれに至るまでは「加速」してなので、男の意識に、俺が動いた「瞬間」も、動いてる「間」も、認識はできていない。

 相手にとって「加速」状態の俺は、速い、なんてモノではないから。


 理解が及ばない事態のゴロツキ二人は額から汗が滴り落ちるほどになっていた。

 それを見て追い打ちをかけておく。


「痛い目を見たくなければ、そこにノビてるお仲間を連れて二度と近づかないでください。」


 これ以上は譲れない。まだかかってくるなら「練習台」になってもらう。

 だからって俺は暴力に溺れるつもりはないので、ここで引けば後は追わない。


 そんな間にも剣を引き抜こうとしている男は悪態をついている。

 もちろん上から俺が押さえてるからビクともさせてないが。


「クソ!何でこんなガキに!一体どうなってやがる!」


 もう一人は顔を青褪めさせて懇願するように怯えながら言った。


「わかった!い、言う通りに、す、する!」


 この二人の差は、吹き飛んだ男の「被害」を確認したか、してないか、だ。

 剣を抜こうとしている男は、俺ばかりを警戒して、やられた仲間に振り向こうともしていなかった。




 こちらの言い分を呑んだ男のセリフに、俺は手からゆっくりと力を抜いた。


 剣を抜こうとしていた男は、抵抗が無くなったのを感じて、すぐにバックステップで距離を取り、怒りと共に吐き出した。


「てめぇ!ふざけたマネしやがってぇ!」


 その後の展開は「お決まり」だ。ベタ過ぎるほどベタだ。


 そいつは剣の腕前に自信があったのだろう。

 即、俺に切りかかってきた。


 もう俺は既にその瞬間に集中している。



 ===  ===  ===  


「加速」にもう入っている。

 止まっているかの如くな男の背後に回り込む。


 その肩に本当に、そう、本当にゆっくり、かつ繊細に、手を添えた。一瞬だけ。

 デコピンの比じゃ無い位、力を入れずに。

 加減は少しずつ覚えて行かなければならない。

 最大威力なんてどうやったって全力を振り絞ればいいだけなのだから。

 コントロールの要る事にこそ慎重を労力を積み重ねなければいけないのだ。


 そもそも、自分以外が止まっているかの如くのその間、その中で俺だけがいつもの様に動けるのは、相手からしたら俺が何百倍もの速さで動いている事になってるのだ。

 もう何度目かの加速状態を体感したから理解してきたが、


(こんなのハタから見たら消えてるも同然に映るよな。格ゲーのキャラでも速すぎて一瞬じゃ何してんだかわからないスピードタイプは、コンボやダッシュが「消えた」と感じて対応できなくなったりとかあるからな)


 けっして「ヨーガ」の奇跡みたいなテレポートではないのだが。

 もしそれが使えたら使えたで、それはそれ面白い事だとは思うが、残念な事に俺は超能力者ではない。

 だが実際、それを受ける側は瞬間移動したのと変わらない。


 そんな冗談な事をボンヤリ思って集中を解いた。


 ===  ===  ===


「ドカッ!」


 そんな音と共に襲い掛かってきたそいつは呆気なく地面にひれ伏した。

 うつ伏せに倒れ気を失っている。


「ひいぃ!」と悲鳴が横から聞こえた。

 青褪めていた残った一人が上げたものだ。


 そいつに告げる。


「とりあえずこの二人を片付けてください。あなた一人でできますか?無理なら手伝いますが?」


 あまりの恐怖だったのだろうか?

 その男は壊れた首振り人形みたいに激しく高速で何度もうなずいている。

 そいつはすぐさま気絶した二人を抱えその場を去っていく。

 重さを感じさせない足取りで。

 まるで一秒でもこの場に残りたくないと言わんばかりに。

今回は頑張りました。

たったの四千未満ですが・・・


万とかどれだけの労力が要るんですか・・・?

俺にはそこまでは無理そうです・・・

ツライ

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