524 聞いておいて本当に良かったのか?
「先ず一番に古代語で書かれている最古の文書にこう書かれています。」
それは内容的に言って良い事なのかと不安が過ぎる。まさか異端審問にかけられてしまうような、聞いちゃいけない中身なのでは?と。
しかし隊長さんがコレを止めない。到底信じるに値しない信憑性の無い戯言と捉えているのか?はたまたこの世界では別に何ともない話なのか?
「ビノータ、それは何も知らない一般人に話していい内容じゃ無いだろう。これ以上は言葉にしてはいけない。」
(ダメだったァー!しっかり注意勧告されてるぅ!でもここまでもう既に聞かされてるんですけど?)
隊長さんは厳しい声音でそうビノータを見据える。だけどこれはもう遅いだろう。
もう後戻りはギリギリアウトではなかろうか?こうしてここまで聞かされて引き下がる事もできない。
それだけ俺自身がこの話をしっかりと聞いておきたいと、もう既に思っている。
だが、宗教関連のゴタゴタには巻き込まれるようなのは勘弁願いたい。
そう言った関連のイザコザって奴は大概世界の根底を覆すような問題に発展しかねないパターンだ。
そんなご大層な話にどっぷりとつかるようなのは誠に回避したい。
(・・・おや?神の横っ面を全力で一発殴りたいと思っている俺は、別に宗教がどうなろうと、世界がどうなろうと結構何とも思っていないぞ?)
ビノータが隊長さんに脅されて言葉を止めている間に俺は少しばかり冷静に自分を顧みた。
そしてこの世界の事を「どうでもいい」と考えている割合が俺の中で結構多い事に気が付く。
ならばここは将来的にその「神」をぶん殴ってやる事ができる可能性ができるなら、ソレを得るためにこの話は聞いておかねばならないと結論づけた。
「聞かせてください。俺自身もちゃんと自分の事をしっかりと確認しておきたいので。」
そう答えを出した俺を隊長さんが厳しい目つきで睨んでくる。さも犯罪者でも見つめるかの如くに。
「良いのかね?こういったものは大抵「知らなくていい」事だぞ?それでもか?・・・ならば私は外に出ていた方がいいな。」
真剣な俺の顔を見てきっと止めるのは無理と判断したのだろう。そして心配もしてくれていると分かった。そして隊長と言う立場上でも聞いては不味いと判断したのかもしれない。
こうして隊長さんが廊下に出ていった後、ビノータは何の躊躇いも見せずに話の続きをし始めた。
「では、続きです。この世には神が二人います。一人はこの世界の土台を創り出した神。そしてもう一人はそこに住む生物を生み出した神です。」
こうした神話と言うのは結構あるモノで俺は別にそこに驚きはしない。
「ですが今の世界宗教は生物を生み出した神の事を全く無いものとしています。まるで最初から居なかったかの如くにです。この最古の文書は後世に作られた創作物だと。世界と生物を創った神は同一であると。」
ありがちな展開になり始めたなと俺は心の中で独り言ちる。この後の展開的に予想はいくつかできる。
「そしてその古文書には二人の神は喧嘩をしたそうです。そして生物を生み出した神の方が追い出されてこの世界のどこかに封じられてしまったと言うのです。」
ほら、きたよ、と俺はこのパターンきっとあるよねと、予想の一つが的中した事に「あーあ」と嘆く。
「喧嘩に勝った神は当然創り出された生物、ソレも「人」を創り直そうとしましたが、世界を生み出し、そして維持する方に力を入れていたので、そちらに割ける力は無い状態だったのです。」
段々と読めてきた。そう、ここで神が取る手段とは簡単に予想が付く。
「なので生み出された生き物「人」に対して自分の持つ微かな余力を付与する事によって人の「根源」を変えられずとも自分の管理下に置いたのです。」
コレは要するに「加護」「祝福」と言ったやつだ。それを俺は持ち合わせていない。
要するに俺は結論としてこの世界には先ず存在しないはずのその「根源」と言う事なのだろう。
「こうして僕が何故ここまで確信を得られたのかと言えば、もちろんあなたの存在です。この古文書には「黒き者」と言った表記が見られ、そして集めた資料、おとぎ話、伝承、伝説の類にも同じ存在と見られる者たちの特徴がつづられています!」
いつも俺はこの世界でイレギュラーだと感じて過ごしていたが、どうやら本当に俺と言う存在はこの世で「いちゃいけない」存在だと言う事がこうしてはっきりと証言されてしまった。




