493 しんぱしー?
まぁ、こうして買い物をしている間に世界の過ぎた時間も一時間チョイであった訳だが。
そんな少しの時間でここまで戻って来れるのは俺位なものだろう。
もう既に目の前にはグリフォンが寝そべっている。体力を温存するためだろう。俺がまたしても現れた事に反応は薄い。
だがその目には警戒心が現れている事を見て取れた。
「さて、どうやってこいつにポーションを使ってやればいいのか?この豚?なら目の前に置いて俺がここを離れれば勝手に食ってくれると思うが・・・」
三歩程俺がグリフォンに近づいた所で警戒の声を上げられた。それは少し弱弱しく感じて脅威度が減っている。
無理して近寄る事をせずに俺は立ち止まって唸り声が止むまで待とうと思った。
しかしそれは早くに訪れた。
草むらの一部がガサガサと揺れ動いたからだ。そちらの方に俺もグリフォンも目が行った。
「にゃーん」。そう、キマイラの登場である。
(ご都合良過ぎか!出てくるタイミング絶妙!?しかもキマイラっていつも何で俺の所にピンポイントで現れるのかな?!何で俺が何処に居るのか判ってるのかな?)
グリフォンの事を気にし過ぎていてキマイラの事を忘れていた俺は、気にしないでいようと思っていたのにも関わらずこの登場タイミングに驚きを隠せない。
俺が加速を使って移動している距離はいくら何でも遠い。その動きに付いて来れていないキマイラに俺が何処に行ったかなんて感知できるようには思えない。
なのにこうして俺の元に来ると言うのはやはりカラクリがあるのだと思うが、それはやっぱりファンタジー的「何か」なのだろうと考えて思考を落ち着かせた。
(わからない事は分からないままに飲み込む・・・それも悟りの一つだ!そうだ!気にしだしたら負けだ。キリが無い)
俺がそんな事を考えているとはキマイラは思わないだろう。そんな思考をしている間にキマイラがグリフォンの目の前まで近づいた。
「おい!キマイラ、そいつはお前の獲物なんかじゃない。手を出したりするんじゃないぞ?いいか、俺はそいつを助けたいんだ。襲い掛かったりするなよ?フリじゃないぞ?マジで!」
慌てて俺はそうキマイラを止めるのに声を掛けるがソレも杞憂だったようだ。
何せグリフォンがキマイラを見ても怯えずに気を抜いている様に見えたからだ。
先程の俺への警戒心は何処へやらと言った感じで、首を下げて地面近くまで下ろしてキマイラを見つめている。
キマイラの方もジッとグリフォンを見つめていて動かない。
(おーい、俺は置いてけ堀か?熱く見つめ合っていらっしゃりますが、どうなってんのコレ?)
俺にはこの状況がどうなってコウなったのか全く想像が及ばない。同じ魔獣同士なにか通じるモノ、シンパシーでも感じているのだろうか?
「にゃーん」「ぐるるルルル」「にゃーん」「クエッ、ぐるる、ルルル」「にゃーん」
「グルル~、クエッ、くえっ」「にゃーん、にゃーん」「ぐる、くえっ、グルル、クエッ」
何とも長閑な光景だ。動物が泣き声でコミニケションを取っている。
なごむ、そう、和む、ナゴム。こんな見た目が恐ろしい巨大魔獣じゃ無ければ。
目の前で展開される魔獣同士の会話は続いている。ちょっと俺はその「何でこうなってる?」という思考迷宮から出られずに暫くそれを眺めて放心していたが、やがてそれも一段落着いたようで鳴き声が止む。
止んだと思えば次の展開にまたしても驚愕した。何せグリフォンが立ち上がって俺の方に歩み寄ってきたからだ。
どうにも追い付いてこない思考に俺は必死に冷静になろうとするが、どうしても目の前のこのグリフォンの行動に理解が及ばずに成り行きに身を任せるしかなかった。




