488 思い出ピロピロ
それは俺が中坊の時だったと思う。家の裏庭で捨てられている子猫を見つけたのだ。
大分衰弱していてもう助からないと、何も知らない俺でも分かってしまう位な状態。
元々病弱な身体で親猫に捨てられたのかもしれない。それが何とも可哀そうに思えて親に一言断って家に入れ段ボール箱とフカフカのクッションを引いて横にさせてやり子猫を寝かせてやった。
温めたミルクを飲ませようとしてみても飲めるだけの体力も無く、ただただ死を待つ身のその子猫の背を撫でてやるしかできなかった。
家はそこまで貧乏じゃ無かったように思うが、だからと言ってペットを飼うだけの余裕も無かったんだと思う。それとは違うが、獣医に掛からせても、もう遅いという確信もあった。
そんな状態の子猫を只の「可哀そう」という情だけで結構な金をかけて助けようとする、しかも助かる見込みがもう無いのに、そんな事はできるはずも無かった。
翌朝、その子猫は冷たく固まって、既に亡くなっていた。それを確認してから朝食をいつも通り食べて学校へ行った。
俺はその日の学校での事をあまり覚えていない。記憶があるのは家に戻って来てからだ。
親に子猫は家の庭に埋めて供養したと教えられ、その後、しばらく自分の部屋の布団で泣いたのを覚えている。
悲しさ、命の儚さ、弱さ、「死」と言う自然、助けられなかった不甲斐無さ、何故あの子猫は死ななければならなかったのかと言う疑問、悔しさ、などなど。
様々な感情が溢れて涙を止められなかった。自分のまだ先のある人生において只のちっぽけな命だったのに。俺とは何の関係も無い命なのに。時間にしても別に何年も可愛がってきた愛猫でも無いのに。
その時の事を強く思い出していた。
目の前のグリフォンは体長三メートルにもなる魔獣なのに。小さな小さな子猫とは比べ物にならない位デカイ。
似ても似つかぬその姿であるのにも関わらず、傷ついているその弱った姿がそんな俺の記憶にある子猫に重なったのだ。
これにはもう、俺がどんな「力」を持っていたとしてもこの衝動には敵わない。
害獣としてこのグリフォンを排除する気などこれっぽっちも出なくなった。
寧ろ助けたいと強く思ってきている。どうにかしてやれないかと。
「だってなぁ・・・どうしたってコレ、被害者はこのグリフォンだろ。こんなマネするのも人のエゴだが、それを助けたいと思うのもまたエゴってやつ何だろうなぁ。こいつにとっては迷惑この上ないだろうな・・・」
俺はグリフォンに五メートル以上離れて立ったまま。腕組をして考えた。
どうしたらこのグリフォンの傷を早く治して体調を回復させてやれるかを。
「人の悪意でこいつは住処を追われて、しかもワザと殺さない様にわざわざこんなになるまで痛めつけられてまでここまで追い込まれたんだろ?・・・俺はそれを許せないなぁ・・・」
バンドロという商人を俺はこの時にはもう「ぶっ飛ばす」と決めた。
「しかしそれは幾ら悪人とは言え、人がやったんだ。それをまた救うのも人でなければいけないよな。でもこいつからしたらどっちも人で、関係無いんだよ。恨まれても仕方が無い。助かった後にこいつが恨みから人を襲う様になったらイカンだろ?」
グリフォンを助けた所でその後の責任なんかも考えるが、そもそも、そう言う面倒な事を背負いたくない俺はどうにか出来ないかと頭を悩ませる。
「この助けたいって思いも、昔のあんな出来事から来るものだと言われても何も言えないからなぁ。そんな俺が「助ける」ならその後の世話も責任持て!って言うのも正論かぁ・・・」
俺は覚悟を決めた。鬱陶しいのも、面倒を背負いこむのも、厄介事も飲み込む覚悟を。
やっとここに来て俺はこの世界で本気で覚悟を決めた。
「よし!なら王国に戻るか!こうなりゃ一気に動かないとな!あーもう!最近、俺、行ったり来たりと何なんだろうな!」
早速加速に入って俺はその場を後にして王国へ走り出した。




