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473  魔法のボタン

 食器の片づけを終えたスタッフが一礼して出て行く。


「何か御用があればそのボタンを押していただければ直ぐにお伺いに参ります。では。」


 きっと明日の朝の朝食もコレを押せば用意してくれるのだろう。いわゆるファミレスに在るようなデザインのボタンがテーブルにちょこんと置いてある。魔法的な何かが掛けられている道具なのだろうか?

 そこら辺を深く考えない様に満ち足りた腹を擦りながらソファーでゆっくりと目をつぶる。


「あーあ。いつもいつもこんな贅沢はしてらんないな。逆にむしろ制限が無いって怖い事なんだな。」


 落ち着いてきた頭で考える。俺がボーナッツと取引した金額は果たして幾らだったと言うのか?

 このカードの名義は商業都市にある商会の長の名前だ。それを俺がこうして使っているのだからちょっとソレもどうなのか?と。

 しかも限度額は無制限と来たものだ。平気でこうしてソレを使っている事が今更ながらにオカシイ事に気付く。


「コレ、ホントはヤバいんじゃねーの?流石にこれ以上は簡単にカードを使わない様にしないといけないか?」


 ボーナッツと取引で持ち込んだ素材は国家予算の一部を揺るがしかねないモノであったのだが、ソレを俺が知る由も無い。むしろ金額を聞くのを憚ったのは俺の方だったりするのだ。

 これには知る恐怖と知らぬ恐怖が折り重なっていて、今更おいそれと金額を知る気になれない。


 コレをあんまり追及すると気が滅入るので一風呂浴びて考えない様にする。

 アリルが以前にやっていた様に風呂場に行って伝令管?のようなモノに「お願いします」と一言告げると、専用の管からドバドバと湯船にお湯が注がれていく。

 そこで俺は久しぶりの風呂を堪能した。


「あー、コレはもう贅沢したくなるよね・・・風呂は心の洗濯だよ、まったく。」


 オッサン臭いセリフを吐いて俺は長風呂を楽しんだ。

 その後、風呂から出て部屋に用意されていた高級そうな装飾の水差しから、これまた美しい紋様が刻まれたガラスのコップに水を注いで一口飲んだ後、トイレで用を足して柔らかいベッドで深い眠りについた。


 翌朝、寝ぼけている頭で見慣れない天井を睨む。


「あー、そうだ宿に泊まったんだ。しかし相当、俺は疲れてたのかな?」


 昨夜ベッドに入って目をつぶる所までは記憶にある。しかし、目をつぶった瞬間からの意識が無い。

 それは瞼が落ちた時にはもう眠りに落ちていた事を現す。

 大分キマイラとの追いかけっこが効いているらしかった。それだけ神経をあの追いかけっこで使い、精神が疲弊していたと言う事だろう。


 完全に目が覚めてきたのでベッドから起き上がって洗面所に向かう。

 顔を洗い、歯を磨き、その後は着替えてリビングのボタンを押す。

 外はちゅんちゅんと雀の鳴き声に似た鳥の囀りが聞こえていた。朝日も出てきたばかりのようで薄暗さと明るさのグラデーションが美しい時間だ。

 まだ早い時間と言った所。そんな時間でも呼び出しのこのボタンを押した事を気付いてくれるだろうかと思ったがソレは余計な心配だった。


「ご用件をお伺いいたします。その前に茶はいかがでしょうか?目覚めの良くなる薬草茶が御座います。」


 来てくれたのは昨日の対応してくれた 女性スタッフだった。早朝にも関わらずその身なりはキリッとキまっている。

 そうして勧められるがままにお茶を貰う。スッキリと鼻を抜ける爽やかな香りが特徴のハーブティーで、それによって俺の残っていた眠気はすっ飛んだ。

 そうして朝食をお願いすると「畏まりました」と短く返事をしてそのスタッフは部屋を出て行く。


(なんだろ?あの最初に俺に声を掛けてくれたスタッフさんが俺の専属になってくれてるのかな?)


 昨日の対応全てもこの女性スタッフが受け持ってくれている。案内も説明も清算の手続きも。

 高級宿と言うとそういうサービスが在ったりするのも頷けるが、この世界にそんなモノは無さそうに思う。


(コンシェルジュだっけ?チップの概念も無かったし、そう言うのも無いんじゃないか?まぁ俺が困る事では無いし、いいか)


 眠気を飛ばす薬草茶を進めてくれたことが嬉しかったので後で礼を言おうと思った所に朝食が運ばれてきた。

 先程のお茶の礼を言うために俺は声を掛ける。


「ありがとう。さっきのお茶は凄く効いたよ。あんなお茶があるんだなぁ。コレ、どこで売ってるか教えてくれない?」


 コレは俺の本心だ。このお茶は僅かな苦みと甘みも感じられたのですごくおいしいお茶でもあった。

 この言葉にスタッフは満面の笑顔で嬉しそうに答えてくれた。


「お褒め頂きありがとうございます。では、宿をお引き払いになる際に詳細のメモをお渡しします。」


 こうして俺はゆっくりと朝食を味わいながら「ずっとここに泊まりたいなぁ」などとぼやく。

 朝食も何の食材を使ったのかも分からなかったが、前世で言う所のオムレツに似た料理が出てきた事に驚きつつも、その美味さに感動してこの宿を後にする事になった。

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