47 神、介入
ここでいきなり俺から入るのはいかがなものか?
そう考える理性はまだ残っていた。
彼女に先に勧める。
「一緒に入らないんですか?」
(どこのラブコメだよ!)
笑顔で言われてドキッとしたが、平静に努めて言い返す。
「冗談はやめましょうよ。」
ただでさえこれまでの事が呑み込めて無いのに、これ以上頭が爆発してしまう案件は受け入れがたい。
「やだなー、ちょっとからかっただけですよ。じゃあお先に失礼しますね。」
アリルが俺をからかう程度には「壁」が薄くなったんだ、と思う事にする。
(・・・女性の後の風呂・・・しまった・・・いや、俺はそこまで変態じゃない、断じて!)
くだらない事に気付いて頭を抱えたが、そこで尿意がきて中断する。
トイレに入り思う。
(トイレと風呂は別々でよかった。これだけは助かった。一体型はダメだ。受け入れられん。それどころか今の現状は別じゃ無かったらやばかった・・・)
密かにあったピンチにぶち当たる事にならずに済んで、安堵しながら便座に座って用を足す。
小便は座ってする派だ。そんな便器は木製ながらも特殊加工されているようで、まるで前世のそれそのままの質感だった。
(これも魔法加工されてるのか・・・?)
紙も製紙されてるとはいえ前世程のモノでは無いにしろ、トイレットペーパーだ。
(まるで違う世界でたった二十年・・・おかしすぎるな。同然の作りな生活基盤。仕掛けが絶対あるな。だとしたらこれは・・・)
まるでそれで確定と言うほどに「ストン」とその考えに落ちた。
(それこそ「神の仕業」ってやつか。託宣やらアイデアを無理くり与えて・・・)
まさに地球を丸パクりです。
どんだけこの世界の神は向こうをリスペクトですか?
たぶん、だ。
「あの時」にいた中で、前世の記憶をそのままに持ってこの世界に生きているのは俺だけ。
そんな俺はこう思ってしまう。
(ふざけたマネしやがって・・・)
心に刻んだ怒りは小さくして奥にしまってあろうとも、神の存在が臭う時、こうして怒りの顔が出てくるのは、その火が消えていずにちゃんとある証拠だ。
それは良い事なのか、悪い事なのか。
水を流すタンクも蓋を開けて覗いてみる。全く構造が一緒だ。
前世をまた幻視しながらレバーを捻りジャーと水の流れる音を聞く。
トイレから出てベッドに腰かけた。
(この先何かとこんな事に出くわすのか?)
こんな事、それは神の手が入った「何事」というやつだ。
憂鬱と言うほどでも無い。が、改めてまた思う。
(隠棲しよう。もう何もこの世界に関わらずに生きたい。それには・・・)
静かな場所、住む家、豊かな食糧、それを実現するためには金も必要だ。
誰にも迷惑かけない懐古厨の完成は遠い。
色々考えてたらガチャリとドアが開いた。
アリルが風呂から出てきたのだ。
「あー、お湯に浸かるのってホント、凄く癒されますよ~。早く体験してきてください。」
共感の相手が欲しいのか、彼女は俺に「早く」と付けて勧めてきた。
だが。
(うん、よく知ってますよ。アリルはこれで二回目とか言ったけど、俺なんて数えきれない程に、物心ついた時から毎日入ってたからね)
彼女はバスローブ姿だった。
これもかよ、と落ち込みかけたが、次の言葉にちょっと考えた。
「王族の方々は遥か昔からこの気持ちよさを毎日体感してたんでしょうね。羨ましいやら、恐ろしいやら。」
王族、そんなのがいるならバスローブも昔から存在はしてたかも、と。
何でも思考を「ソレ」に繋げていたら身が持たない、そう留めた。
「・・・ん?王族?」
「おっとこれ以上は不敬ですね。」
もうファンタジーなんだから、と、一々口にしなくてもいいだろうに、王族というキーワードについ反応してしまった。




