4 理不尽は突然が当たり前
俺は死んだ訳ではないようだが、この事態に精神への衝撃は計り知れない。
向こうの自分はきっと今まで通りの生活を送っているのだろう、あの調子だと。
では、今の赤子になっている俺はどうしてこうなった?
まだ思い出さねばならない事が残っている。それが終わればきっと判明するはず。
この先どうするかの指標も浮かぶかもしれない。
ここまでで一番の幸運は記憶がはっきりしている事だろうか。
(我思う、故に、我在り。とは良く言ったもんだな)
記憶喪失だったらもっと状況は最悪だった。何も解らずにずっと混乱し続けていただろう事は想像に難くない。
(いっそ何もかも真っ新になって生まれていたほうが楽だっただろうな・・・)
記憶も自我も持ち合わせず、ただの赤子のままに。
どちらが良かったのかの判断の答えも、まだこれから思い出す中にあるだろう。
何となくだが、確信めいたものが心の中にあった。
(さて・・・覚悟を決めないとな・・・)
もう一度自分の内側へ意識を向ける。
どんな理不尽がこの身に降りかかってきたのか、それを確かめるために。
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天井を通過して外へと出てきてしまった。
少しずつ空へと浮かび上がっていく速度が上がっている。
そこへきて俺の精神は現実逃避していた。
(夢・・・そうこれは夢・・ははっ!青い空、白い雲。今日も快晴だ!)
肉体があればきっと涙が止まらずにいただろう。
だがここで俺は自分が白く光る球体になっている事は把握していた。
涙したくてもそれは叶わない。心の中は滝のように涙は溢れているが。
それがどんな感情によるものかは分からない。
そのうち住んでいる街の全体が見えてくる頃、それは起きた。
(なんだよこれは!ちくしょう!)
大空の何も無い所に白い境界ができていた。
そこに何の抵抗もなく自分が吸い込まれていく。
白いボールがゆっくりと水面に沈んでいくように。
(もう、訳が分からない。疲れた・・・)
気づけばパルテノン神殿のような場所にいた。
そこで目を見開いた。
その神々しい空気にではなく、目の前に広がる異常な光景に。
(俺と同じ・・・しかも、埋め尽くさんばかりの・・・)
この場を白い球体がみっしりぎゅうぎゅう詰め。
いや、その前にそれが全て入るほどの大きさの神殿。
いやその前にここどこ?外を望めば一面雲の絨毯。
目に一気に入ってくる視覚情報の密度に脳を殴られる。
浮かんでは答の出せない疑問が次々と何処か彼方にぶっ飛んでいく。
やはりここにきても又もや現実逃避に陥ってしまう。
(パニック障害ってこんな感じなのかな・・・ここから全力で逃げ出したい・・・何もかもを置き去りにして・・・消えたい全て忘れて・・・)
自暴自棄になって力が入らない。
そこへまた追い打ちがかかる。それもとびきりの。
「あなたたちは浄化と洗礼を受け、新しい世界の住民として転生します。」
突然天井から、白く光る人影がそう言い放つ。
すごく優しい聞きほれてしまうような綺麗な声で。