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39  心配事

 男は自分専用の執務室に入ると、資料棚から何冊も本を取り出した。

 質実剛健な机にそれらを遠慮なくドカっと置いて椅子に深く腰をすえる。


 彼の名は「ギヌベルト」。傭兵ギルドのマスター。

 その表情は苦々しい。

 一冊、手に取ると大きく息を吐く。


「ふぅー。何故こうも最近は余計な煩わしい事が多い?困ったものだ。」


 パラパラと本をめくり、調べたい事が載っているページを探す。


「む・・これか?・・・黒の魔章・・・」


 背もたれに体重を預けてじっくりとそれを読んでいく。


「ん・・?黒き星 光の空を破りて天を裂く?世界は二つに分かたれ全ての血が大地に収まらん。・・・・意味が分からん。他のも調べるか。」


 そう言って彼は次々と本を手にして読み漁る。

 しばらくの間そうしていたが、ガチャッとドアノブを捻る音を聞いてそちらに視線を向ける。

 そこには、いい香りを立たせた茶の入ったポットを持った女性職員が入ってきていた。


「お次はどんな厄介事ですか。」


「これを読んでくれ。もしかしたらあの黒い青年をうちに囲い込んで「首輪」を付けるぞ。」


「あら、物騒ですよ物言いが。奴隷商みたいですよ?」


 ニコニコして茶化す言葉を投げ、からかおうとする女性職員。

 だがギヌベルトは腕を組んで黙って前を見据えている。

 その様子に嘆息してから一冊の本を手に取り、開いていたページを読む。


「その黒き力は神の加護が無い。だが、だからこそ、その黒き道理は天地あまねく全てを貫きて、神をも殺さん。」


 その一文を読んだ彼女は、つまらない冗談を聞かされたと言わんばかりに顔をしかめる。

 そこにギルドマスターの要請が入る。


「青年に見張りを付けといてくれ。」


 だがその返事はかなり辛辣なものだ。


「サブギルドマスターとして言わせてもらいます。そのような余裕はありません。くだらない事に金も人材も掛けてられませんね。」


「おい・・・ヴィルマ・・・」


「それにこの文献はどれも信憑が無い、妄想の類でしょう?」


 バッサリとそう言い切られて彼は意気消沈する。


「心配のし過ぎか?・・・いや、この違和感が未だ拭えない。もう少し情報を集めてから・・・」


 サブギルドマスター、ヴィルマはその言に止めを指す。


「あなた個人の心配事なら後にしてくださいません?今日の報告書と始末書、後は決済確認にその他の登録に関する精査まで溜まっているんです。あとそれからこの後すぐ合同会議が・・・」


 彼女は有無を言わさぬ笑顔でギヌベルトを睨みつける。


「あー、わかった、分かったから!そんな目で見るなって!」


 彼はその威圧に負けて、急いで本を棚に片付け戻し、会議のある別室へと重い歩みで向かうのだった。

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