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384  保障

 ここは王国から出る際にくぐった門の前。そう、旧道へと続く門の前の広場。

 そこにキマイラには降りてもらった。


「おー、早かったな。ありがとよ。んじゃぁ降ろしてくれ。」


 また蛇の尻尾が巻き付いて順番にゆっくりとその背から降ろしてもらう。下っ端、お嬢さん方、そして俺の順に。

 全員が地面に足を付けた後、キマイラは猫モードに戻り一鳴きする。「にゃーん」のその次には光学迷彩?で姿が見えなくなっていきその場から消えた。

 すぐそばの草むらでガサゴソと音がいきなりしたのできっとまた森に行ったのかもしれない。


 そう思いつつも振り返ると全員が力無く地面に座り込んでいた。

 元気なのは俺だけ。立っているのも俺だけ。四人は未だにショックから立ち直れない様子だ。


「おーい、今日は王国で宿を取って明日また商業都市に向かおう。皆の気力がもう無いみたいだしな。」


 虚ろになりかけた目でリンダが俺へと顔を向けてきて一言文句をつけてくる。


「あ、アナタ・・・何で平気なの?って言うか、アレは一体何なの?いえ、そんな生易しい物じゃないわよアレ・・・」


 アレだの何だのと言ってくるが随分と失礼な発言だ。今、彼女らは俺の指示に従って助かるために同行しているはずだ。

 なのにその手段にこういった文句をつけてくるのは些か不快だ。助かるならどんな手段だって使う覚悟が足りていない。

 しかし俺だってその心情は解らない訳じゃ無い。彼女らと全く同じ立場なら俺だって一言、いや、二言三言、言ってやりたい、聞かずにはおれないと思うから。


「充分休憩できたと思ったらさっさと立ってくれ。王国に入れなけりゃこのままここでまた野営だぞ?あ、そうか、身分証やら通行証が・・・あー、持って無いよね?」


 持っている訳が無かった。突然誘拐されて、助かって、その後にそのままにここまで来たのだから。

 お嬢さん方は首を横に振って持っていないアピールだ。仕方が無いだろう。


(第二級の俺のコレで何とか通れないもんかね?結構大丈夫なんじゃ無いかと思ってるんだが)


 子供達「ナンバーズ」の時の件があったので、俺は別段その事を深く考えなくなった。

 しかしここで全く違う方向から問題が出てきた。でもその問題も当たり前である事だった。


「お前たち!抵抗するなよ!?もしこちらの言う事が聞けない場合、即刻お前たちを殺す!良いかまずは両手を上げて跪くんだ!」


 衛兵がこちらに槍を向けながらそう怒鳴って来た。

 そう、ここは門のすぐ目の前。彼らの目にもキマイラ獅子モードが映っていて当然。

 そうなれば安全保障上、キマイラが居なくなった後の俺たちに事情説明を求めなければならないだろう事は分かりきった事だ。すぐにこちらに接触せずにいたとなると、それは応援を呼んでいる時間だったのだろう。

 俺たちは七人の衛兵に囲まれてしまった。その中には見覚えのある門衛の顔がある。


「あ、なぁ、そこのあんた。俺の顔に見覚え有るだろ?子供らを森に入らせた時の俺だよ。身元保証確認しちゃくれない?こっちに抵抗の意思は無いからさ。ほらこの通り。」


 両手を上げてその門衛に顔を向ける俺。それを見て驚いた顔をされる。


「あ、あんた一体何してんだ?あのさっきの魔獣は一体何なんだ?それに、この娘らは一体何者・・・それとこいつは?」


 きっと聞きたい事が一杯なのだろう。一つ一つ説明してやりたい所だったが、今はそんな悠長な事をしてる場合じゃない。この殺気と困惑と恐怖と警戒心がグチャグチャな衛兵たちの心を鎮めてやる方が先だ。


「そんな事はどうだっていいから、先に俺の手形を出すからそれで一先ずはこの囲いを解散してくれないかなぁ?」


 俺と話す門衛に視線が集まる。少しソレで躊躇しつつも一つ頷く門衛。そうしてやっとこちらに向けられていた槍が下げられた。

 再び槍を向けられない様に「危険ではありません」アピールに魔法カバンからゆっくりと「第二級」の手形を取り出して側にいた衛兵にゆっくりと差し出す。

 それを受け取って確かめた衛兵が一瞬だけ驚きの表情をして、周囲の衛兵たちを集める。

 その集まった衛兵たちにも確認をさせてやっと手形が俺の所に返ってくる。


「失礼しました!これも治安維持のためですのでご容赦を。しかし事情説明はしていただけるのでしょうか?していただけると非常に・・・こちらもありがたいのですが・・・」


 ここでもまた「第二級」の威力が炸裂する。衛兵たちの態度がいきなり変わる。

 この言い淀み方だと拒否をしても何も言われないだろう。きっと手形のランクがもっと低かったなら強制で詰所に連れて行かれて事情をネホリンハホリンされていたに違いない。


「こちらにも深い、深ーい事情があるので説明は出来かねます。すいません。」


 俺はこれに簡潔に断る。余計な取り繕いは馬脚を露す事に繋がりかねない。だから短く、そして端的に会話をコレで切って終わりに仕向ける。

 それでもまだ確認したい事があるのか念を押す様に強い感じで最後に一つだけ質問される。


「あの魔獣に危険は無いんですね?無いと思って良いんですよね?大丈夫なんですよね?」


 これに俺は安心させるようにニッコリと笑顔で答える。


「安心してください。余計な手出しさえしなければ何も害はありません。・・・きっと。」


 キマイラは生きているのだからそこに危害を加えようとしてくるものがあれば反撃をして暴れるだろう。それは生物として防衛本能なのだから仕方が無い。

 しかし最後の「きっと」の一言は凄く小さくボソリと呟くように言った。だってキマイラがどういった理由で不機嫌になり暴れるか俺は知らないのだから。そこは保証ができない。


 ソレでその場は納得したのか衛兵たちは解散して王国内へと戻っていく。きっとこの件は「上」に報告が上がるだろう。そうするとまたそれによって何か厄介事がこっちに舞い込んでくる可能性が高い。なので余計な滞在をせず、さっさと王国を出るに限る。


「しかし今日はお嬢さん方がこれだしな?一泊は仕方が無い事か・・・」


 キマイラに続き衛兵たちに槍を突き付けられて流石に精神が持たなかったようで、三人とも死んだ魚の目になってしまっていた。

 ちなみに下っ端の事はここでも無視だ。こいつに余計な気を払う余裕なんて俺には持ち合わせが無い。


(さてと、じゃあボチボチ宿を探さないとな。ホント、なんで今こんな事になってるんだ?)


 俺はいつまでも立ち上がる気配の無いお嬢さん方を一人一人手を取って引っ張り上げながら立たせる。

 未だフラフラなお嬢さん方の背中を俺はそのまま押して門まで歩くように促した。

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