382 この展開は?
さてここからどうしようか迷う。お嬢さんたちの脚はもう限界なのだろう。
先程から地べたに座って立ち上がる気配を見せない。キマイラに驚いたリンダは立ち上がったが、今ではまた座り込んでしまっている。
下っ端はキマイラに驚いた事でドッと疲れが襲ってきたのか木にもたれ掛かっていた。
残っている元気なのは俺とキマイラだけ。
「うーん?どうするかな?このまま王国へ歩くのは・・・無理か。しかし連合国に行ってもイルディスみたいな金で裏切ってる奴を判別するとか無理だし。危険はそっちの方がデカいよな。」
もう既に連合国はカネドルの支配下に近いんじゃないかと疑っている。そうなれば幾らリンダの家がお貴族様だろうと危ないだろう。匿ってもらうにしろそんな敵が周囲を囲んでいる場所にむざむざ帰す事もできない。
語弊があるかもしれない。帰す事はできる。簡単に。そう俺の「力」があれば。だがその後だ。俺は彼女らを家に返したらソレでバイバイ、した後に悲報を離れた地で聞いてしまえば後悔する事になるだろう。
そんな嫌な気分を味わされる可能性を残すのは絶対に避けたい。
森での休憩中にリンダから説明を受けたが、連合国と言うのは合議制を敷いているのだそうな。
王は居る。しかし象徴的な立場であり、その下に政治を熟す「議会」が存在する。
いわゆる「日本みたい」なようだ。しかしそれも成熟してはおらず、こうしてカネドルのような薄汚い政治屋というものが産まれていると言った所か。
「商業都市に逃げ込めばカネドルの手下もそんなところまでは追ってこないばかりか、今の俺たちの動きも、そもそも奴は把握できていないんじゃ無いか?そうなれば今は一刻も早くここを離れたいんだがなぁ?」
うーん、と悩んでいたらキマイラが不意に抱っこしていた俺から飛び降りた。
俺を見て「にゃーん」といつものように一鳴きする。本当にいつも通りな変化の無い鳴き声に別に気にする所も無かったのだが、次の瞬間に俺はその場を二歩三歩と後ずさった。
何故か?ソレは見る見るうちに巨大化していき、その姿を変えていったから。
そう、キマイラが獅子モードになったからだ。
「おい?どうしたキマイラ?いきなりデカくなって?んん?・・・まさかまさか?」
俺は別段このキマイラの獅子モードには驚く所は無かった。だが、俺以外はそうじゃない。
突然目の前で小さい存在が姿を見る見るうちに変え、見た目が丸っきり変わればそうはいかないだろう。
しかもその体躯は巨大だ。周囲の木々もなぎ倒しながら大きくなっていったのだ。ここは森の中。当然その音は周囲に盛大に響き渡り、隠れて身を潜めていた動物や鳥たちが一斉に逃げ出す事にもなろう。
叫び声のようなモノを上げながら逃げ惑う動物たちの阿鼻叫喚とは裏腹に、お嬢さんたちは悲鳴一つ上げずにキマイラの威容をその目で見て気絶しかけていた。
下っ端はと言えば気絶はしていないようだったが、その口から魂でも抜けた表現がしっくりくるような顔で真っ白になっていた。
「私たち・・・どうなるの?もうどうすればいいか分からない・・・」
リンダは全てを諦めた表情でキマイラを見つめていた。




