377 奴隷宣言
俺に決心させたのはテントの中に居た二人の声だった。
「私たちからもお願いします。ずっと会話を聞いておりました。このまま私たちも家に帰れた所で内部に裏切り者がいるのかどうか不安で。どうぞ助けて頂けないでしょうか?」
コレはどう考えても俺に対して同情を誘って頷かせるつもりだ。
そして俺にはそれに抗う為の芯が無い。これにはもう用心棒を断る選択肢が消滅させられた。
「はぁ~、分かった。ならアンタらは俺の言う事を守ってくれ。でも俺とは見方の違う意見はこっちも意味も無く突っぱねるつもりは無いから、そこら辺はよく考えたうえで意見は言ってくれ。それが納得できる案なら飲み込む。」
これに彼女らは頷いた。そうして先ず言わなければならない事を口にする。
「それじゃあ今日はここで一泊する。連合国に着くにはここからだとあんたらの脚だと今から出ても暗い時間になるだろう。ん?あ、そう言えば下っ端はどこ行った?」
周囲を見回すとそいつは近くの木の陰に背を付けて隠れていた。
「どうしようかあいつ?奴隷の首輪をさせても裏切る?みたいだし始末はつけるか?・・・でも道案内は残しておかないと・・・」
「い、命だけは助けてくれ!この通りだ!な、何でもする!もう危害を加えるような、アンタらに被害が出る行動は一切しない事を誓う!だからみ!見逃してくれ!命だけはどうか!」
咄嗟に木の影から出てきた下っ端はそう言って土下座してきた。
そうすると不思議な光が首輪から漏れ出した。
「ん?その光は何だ?首輪が・・・?」
それにはお嬢さん三人も何が起きたのかと下っ端を見つめる。
そうして光った首輪は次第に少しづつ光が治まっていく。
「や!し、しまった!?クソ!は、外れない!」
下っ端は首輪が光っていた事すら気付かなかったみたいだが、首輪の光が自分に吸収されていくにつれて何が起こってしまったのか知っているのか取り乱して首輪を外そうと手に掛ける。
「おい、何が起きたのか説明してくれるよな?何だったんだ?今のは。」
首を上げて俺を見て観念したのかガクッと項垂れてポツポツと下っ端は説明し始める。
先程の光は言うなれば自分から奴隷志願した時にされるシステムらしい。
これが発動するとこの先、一生何があろうと誰が触ろうと首輪は外れ無くなるという。
奴隷と言うものは好きで自分でなるモノでは無い。しかしそれでもこの首輪を付けた状態でソレを自らの口で宣言してしまうと「奴隷」という立場を受け入れると言う事になり、首輪がどんな例外も無く絶対に外れなくなるシステムとなるようだ。
まぁ、変態性癖な「ドエム」でも持ち合わせていない限りめったにこの現象は起こらない代物だろう。
他には自らが心の底から主と認める者の所有物として示すと言った意味合いもある事はあるらしいが、今の時代にそんな行為を率先してする輩はいないらしい。
今から下っ端はリンダの忠実な下僕と「成り下がって」しまった。それで先程の下っ端の取り乱した事の説明がついた。
コイツは命を拾うために土下座してきたが、心の中では首輪を何とか外して逃げられ無いか思いを巡らしていたに違いない。
しかしこうしてその行動と言葉は首輪が反応するだけの事態だと「システム」に認識された訳だ。
(魔法って万能、ってかコレはちょっと恐ろしいな。まぁ、これで余計な悩みは減ったか)
しかしこれはリンダがこの下っ端の管理をしなければならなくなったという事に他ならない。
だから彼女に聞いてみる。
「なぁ?こいつどうする?こうして忠実な下僕になったけれど、この先管理するのが面倒なら始末は俺がつけるけど?」
これにはリンダも唸る。自分を殺そうとした者が、幾ら首輪のシステムでこちらの言う事に絶対服従の下僕になったからと言って、このままにしておけるほどには許せる気持ちが湧いて来ていないみたいだ。
「この森の案内を終わらせたら強制労働所に回しましょう。罪は償わせます。それも議長の娘を殺害しようとした事実は重罪で死刑は免れない所です。ですが首輪の効果があれば労役に回すのもいいでしょう。死刑よりも酷い目にそこでは合うでしょうから。一生働いて貰います。」
これに下っ端は本日二度目の顔面蒼白になった。
俺も死ぬより酷い目ってどんなだよ?と若干引いた。




