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36  理由

「あの、それって・・・?」


「いやいや、「説明」というには少々堅苦しいからね。爺の思い出話に付き合ってくれ。聞いてくれれば分かるよ。」


「いえ、会長のお話なれば、お聞きできるならば願っても無い事です。これも貴重な経験と思って勉強させてもらいます。」


 アリルは調子を取り戻したのか流暢に返事をする。


(早いとこ理由が聞きたいんだが?まあ仕方ないか。第一印象と今とじゃキャラが違い過ぎて、狸爺っぽい感じだしな。話に付き合えば自然と見えてくるかな)


 商会長なんぞをやっているなら、その踏んだ場数も経験もあちらが遥かに上だろうし、単刀直入に聞いてもはぐらかされて終わりだろう、と、俺は黙って静かにする事にした。


 だけどさっきからランドルフに険しい目で睨まれているのが、何とも落ち着けない。


 ボーナッツは茶を一口飲んでから語り始めた。



 成人してすぐ一人立ちした事。用心棒を採らずとも自力で商売など何とかできると自惚れていた事。

 そのせいで痛い目を見た事。安かろう、弱かろうの用心棒では役立たずで大損してしまった事。

 高い値の強い者を雇ったが、裏切られ命からがら助かった事。


 駆け出しの商人には必ずこの脅しをかけ、用心棒には強さの大切さだけでなく、信用も信頼も無ければならない事を教える。

 用心棒を自前で用意した者には、それを「篩」にかけるのも目的にしている事。


 そしてもう一つ、商会からの用心棒の斡旋。手頃の値段で強者を紹介もしている。


「昔の自分と同じ目に遭って欲しくはないからね。自衛の力が無いばかりに、そんな事で金がむやみに減っては、そこで商売が立ち行かなくなってしまうからね。つまらない事で「躓く」のは誰でも嫌だろう?」


 親切心や立場からの義理だけではなく、この都市で商会登録員が、その身の安全をちゃんと確保できていて、儲けを続けていれば、それに比例して商会の規模も儲けも大きくなっていく。


 なるほど、と納得した。よく考えられている。


 ふざけた理由だったらどうしてくれよう、と密かに思っていたのは秘密だ。


 商会長直々にそれを行うのは「趣味」だそうだ。

 それはどうなの?とそこにはツッコミたかったが我慢した。


「と、そこで、だ。お嬢さん、名はアリルだったね。君は合格・・・と言いたいんだが、彼で本当に構わんのかね?」


(ん?俺、今、イチャモン付けられた?何故に?)


「道中、野盗に襲われたところを助けて頂いているんです。人柄は信用できます。」


「ほほう・・・それで、給金はどの程度を考えているのかね?」


「助けて頂いたお礼も入れて、多めに見積もっています。」


「いやいや、俺、相場がどのくらいか知らないけど、普通の金額でいいよ?雇ってもらってる立場だし?」


「それでは私の気持ちが収まらないので受け取っていただきます。よろしくお願いします。」


「キリッ」とした表情で「ピシッ」と言い切られてしまう。


(うーん・・・貰っていいのかなぁ・・・でも申し訳ないなぁ。助けたのも、あんまり大それた理由でもないし。遠慮しても受け付けてくれなさそう)


 何も言い返せなかった。俺はヘタレです。


「ふむ、では両名納得と言う事ですかな?では手続きいたしましょう。少々話し込んでしまいましたな。時間も時間だが、書類の方は本日付で処理しましょう。」


「よろしくお願いします」


 アリルはそう頭を下げる。オロオロしていたのはすっかり無くなり、引き締まった商売人の顔になっていた。

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