353 頼みたい
何の問題も無く馬車は城に着く。身なりの汚いボロの服を着た子供達がゾロゾロと降りて、巨大な城門を呆気に取られたように見上げている。
またしても異様な光景ではあるが、それをさも気にしないフリで俺は声を掛ける。
「お前たち、三列に並びなさい。さあ、付いてくるんだ。」
案内役の男が「こちらです」と言って城の中を先導する。
俺がそれについて行けば、子供達も何の迷いも無くついてくる。
城の中ではさすがにキョロキョロしてはいるが、それでもはぐれたり、列が乱れたりしない。
(何だろうな?もうそういうモノとして何も考えないでおくのが一番煩わされることも無いか・・・)
そんな風に子供たちの生態を気にするのを止めた時に会議室に辿り着く。
「お客人をご案内して参りました。」
「分かった入って頂きなさい。」
そんな短いやり取りですぐ案内人がドアを開ける。中に居たのは丞相クローイン。
「どうぞ、こちらへ。・・・子供らも中に。茶と菓子を用意しよう。」
そう言ってこちらを持て成そうとしてくる丞相だが、その顔は少し引きつっていた。
(そりゃそうだろう。俺だって同じ反応するよあんたと同じ立場だったらな)
これだけ数、ましてやスラムの子供をこの城に招いたという結果を想像する事すらできなかったに違いない。
しかしその動揺も飲み込んで何も問題は無いように振る舞う丞相は忍耐強い。感心する。
俺が子供らに順番に並んで椅子に座って行くように指示をする。
最後に俺が丞相の目の前の椅子に座ると大勢のメイドが入って来て用意が始まる。
こうして全員に、そう、全員に茶と菓子が配られて行く。
会議室は広く、これだけの人数が入っても収容しきれている。そんな中、ティーカップと菓子の入った皿の並べられていく音だけが響く。
そうしてお茶が注がれるといい匂いがする湯気が辺りに立ち込めて会議場を包む。
全てが終わるとメイドはスルスルと室内から出て行き、静寂が訪れた。
配られた茶に口を誰も付けない。菓子も手を付けない。そう子供達全員が、だ。
気にしている様子ではあるがそれでも視線だけで手を伸ばそうとする子は一人も居ない。
きっとそれはこんな状況に居る自分たちの立場がどんなモノなのか理解できていないからだろう。良いか悪いかが判断できていないに違いない。
そのまま静かに十秒程流れた所で、静寂を破ったのは丞相だ。
「先ずは王女の件、礼を言う。」
俺はそれに驚いた。何せ礼を言われるような事ではないからだ。
しかも今その事を話題にする意味が無い。もう過ぎた事だから。
「気にする必要は無いし、ましてやあんたが礼を言う事でも無い。そんな事より頼みたい事があるんだよ。受けてくんないか?」
俺はいち早くここから出たい。そう、問題をさっさと終わらせて王国から出て行きたい。
「・・・あんな脅しをしてきておいて「頼みたい」ですか?むしろあのような伝言では貴方を危険人物として扱うと思わなかったので?」
それは俺も思った。しかし生半可な言葉では話も聞いてくれる気にならないと思ったから、あんな安易に「暴れるぞ」という伝言を頼んだのだ。
しかしそれがそのまま直接丞相に届くとは思ってもいなかったが。
報告員がそのままこの城、それも内部にまで案内する役を受けて迎えにそのまま戻って来たのだ。その事に驚かなかった訳じゃ無い。
「こちらも・・・いいや、もう腹の探り合いとか余計に時間食うだけだ。言いたい事だけ言うから、全面的に受け入れてくれ。そうすりゃ今日中に王国から出て行くよ。それで良いだろ?」
もううんざりだ。お偉いさんとの話し合いはこういう風に少しずつ外側から埋めるような面倒な会話が長い。
俺と丞相は雑談するような仲じゃないのだ最初からそもそも。だから一気に突っ込んだ。
「それはその内容によりますね。そもそも貴方一人でノコノコと城まで来て危機感が足りないようですね。魔獣はどうしました?」
その言葉と共にぞろぞろと会議室のあちこちから兵士が出てくる。
その数は十二名。護衛を控えさせておく部屋なのだろう。あちこちのドアから二名ずつ出てきてこちらを囲むように槍を構えて包囲してきた。




