33 迫る危機
何故「対戦」する事になったんだろうか?
神か悪魔か運命か?なんて事は言うつもりはない。
結局、何かしようと、しなかろうとこれが「因果」なれば誰にも、ましてや神にもどうしようもない。
原因と結果の螺旋には神ですら抗えないだろうし、もしそれを操る事が出来るとしても、神は世界を傍観するだけで、ちっぽけな人間の一人を一々構うことも無いはずだ。
村を出て見えなくなった辺りで速攻ダッシュした、アリルに出会った、助けて都市まで一緒に来た。
もうこの時点で「型にハマる」ってやつだったんだろうと思う。
それはどんな形になろうとも厄介に巻き込まれる、ってやつで。
多分に漏れず俺が状況に流されていたのも原因の一つではあろうが。
さて、俺は自分の力がバレる事を良しとしない。
傷つけず、侮られず、力を示して納得してもらうには?
難題に頭が痛い。
「彼は昔「レッドベア」と言われた二つ名持ちの元傭兵でね。まぁ言わずともわかるかな?痛い目に遭いたく無ければ・・・いやはやそれにしても、そんな小さな青年が用心棒?ははは、しかも逃げず怯まずとは恐れ入るね。」
「褒めて頂いて誠に恐縮です。」
嫌味を言われたんだと思うが、そこは敢えて乗っかり返しといた。
(それにしてもオッサンの顔、小悪党って感じがし無いな。何者かな?なんか企んでそう・・・?)
「さて手っ取り早くいこう。準備は良いかな?」
「こちらはいつでも。」
「滑稽に見えるほどの余裕だね。ふむ、ならば手加減はせんでいい、ランドルフ、全力でやってやりなさい。」
その時にはアリルは俺の遥か後ろに下がっていた。
ランドルフは雇い主のその命令に怪訝な顔をしたが、拳を握りしめ全身に力を漲らせた。
彼の「型」は弓を大きく引いたような構えで、大岩をイメージさせる固い感じではなく、よくしなる強靭な鞭の様なプレッシャーを与えてくる。
(あー、こりゃすげえや・・・圧が半端ない)
遥か後方に下がっていたアリルはそれに耐えきれなかったようで、そこからさらに下がって壁際まで追い詰められていた。
「やれ」
短いその一言で俺に巨大な拳が迫ってくる。
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「加速」に入った俺にはそのスピードがゆっくりに見えている。
(実際にはものすげー早さなんだろうな。プロの「ジャブ」は素人には見切り避けれないって言われるし)
だけどこの世界での俺は何故ゆえにか、こんなことも可能になってしまった。
(格闘技とか楽しくなくなちゃうよな、この「加速」状態でしたら。・・・チート?いやいや無いでしょ?それって大概、神様が与えるパターンモノでしょ?俺は神の加護を拒否したんだけど・・・?)
習い事で武道をやっていたとはいえ、素人同然。確かに試合や稽古で対人戦はしてはいるが、所詮は趣味の割合がデカかった俺。
こんな「力」は分不相応だ。けどこれがあるから「世界」を恐れずに済むし、余裕が出来てアリルを助けられたし、寝覚めの悪い事も起きていない。
ヤバいと思ったら「逃げ」を選べるのは気持ちが軽くいられて助かっている。
だがこれを大っぴらにしたくも無い。この力目当てに面倒事を押し付けられたくもない。
何処かでひっそりと前世の記憶を懐かしんで、誰も傷つけない「懐古厨」して静かに一生を過ごしたい。
どうせこの世界の人に「格ゲーが」とか「ゲーセン」とか迫っても解らないのだし。
(あ、もうそろそろ顔面に迫ってきちゃうな・・・)
目前に来るまで対処をどうするか考えてなかった。
(えーい、コナクソ!どうにでもなれ!)
機転も妙案も浮かべられずにタイムオーバーになった俺の取った行動が・・・・
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打ち切って腕が伸び切り、デカい石を思わせる拳が止まると同時に、そこにそっと小さな手の平が添えられた。
その事に殴りかかった本人ランドルフは、背中に今まで感じた事のない得体の知れない恐怖が走っていた。




