32 流儀
村ではあんなに拒否されていた自分「黒」という事実はこの時忘れかけていた。
何故なら奇異の目で見てくる事はあろうとも絡んでくる奴はいなかったから。
アリルは何も言ってこないし「こんなもの」と高を括っていた。
「商会への一時登録とその交渉に来ました。受付の手続きをお願いします。」
「ふむ、もう既に先程、終了させてしまった所でね。そうだな、君の「心付け」があるならば割り込ませてもかまわないがね?」
俺に構わずアリルは本題をハッキリと口にし、それを憎々しい対応で切り返すオッサン。
(いきなり袖の下を要求するとか、どんだけだよ・・・)
いきなりの「ヒク」展開によろめきそうになるがグッと堪えて成り行きを見守る事にした。
どうせ俺がここで話に割り込む立場に無いし、出番も無い。この時の俺はそう思っていた。
「私が調べた時間ではまだ受付は余裕があるはずですが?しかも一時登録には登録料は発生しないはずです。」
「ほほう・・・君は私に手間をかけさせようと言うのに労いも無いと?」
「商いとは決められた守り事の中で、客と商人とでお互いの「信用」と「利」を交換することが一番大事だと教わりました。」
何処をどう見ても無駄に豪華な装飾に目を奪われていたら、周囲の空気が何故か変わり始めた。
部屋に俺たちの他に数人いたはずなのに、そいつらはそそくさに出ていくか壁際に拠っていく。
アリルをちらりと見れば顔は余裕の表情だが身体はプルプルと小刻みに震えている。
空気は読めない。だけどこの世界の常識を知らない俺でもオッサンが賄賂を露骨に要求しているのは解る。
「だがそれも自らを守る力が無ければ空しい言葉に過ぎんと思うがね?」
オッサンはおもむろに立ち上がりカウンターから出てきてパンパンと2度、手を叩いた。それはよく響いてこの部屋の更に奥のドアの方まで届いているようだった。
「力を見せてもらえるかね?お嬢さん?」
そのセリフに奥にあるドアから、身の丈2メートルはあろうかという大岩を思わせる男が現れる。
ノシノシと近づいてきた男がその体躯に見合う厳つい声音で、丁寧に挨拶をしてきた。
「お初にお目にかかる。私はこの商会にて雇われている者で、名はランドルフだ。よろしく。」
見た目を裏切るその挨拶に尊大な態度は無く、むしろ何故か申し訳ない様な響きを含んでいた。
だがその威圧感にアリルは息を飲んで動けないようだった。口もつぐんで挨拶を返せていない。
(社会人として挨拶は重要だ。ここはまず俺がフォローしようか)
会社勤めの営業だったその名残がここで出てきた。
そんな自分に苦笑いが出つつ、アリルの横に出て代わりに挨拶をする。
「こんにちはランドルフさん。俺が彼女に雇われている用心棒です。」
流石に鈍い俺にもここまでくれば状況は飲み込めていた。
自衛、力、そこへ大男。
言外に「戦え」と言っているのだ。
どちらが強いか立場をハッキリとさせる。分かり易い。
前世では警察に捕まる案件だけど、ここは異世界。
ルールも法律も未だ俺は知らないが、「対戦」の流儀なら分かる。
ここは俺の出番らしい、が、不安もあった。
(未だに力加減が出来ないからなぁ・・・どうすりゃいいか・・・?)
ランドルフを前にしても平然としていられるのは、村で魔獣をぶっ飛ばした経験があるからだ。
彼を倒せと言われれば俺には余裕なのだが、殺したら大事だし、そもそも殺す気は毛頭無い。
どうあしらえばいいのか悩んでしまった。




