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315  サイテー

「やあやあやあ、待ちくたびれたよ「白牙」。随分と戻って来るのが遅かったじゃないか?」


 そんな大袈裟なジェスチャーで腕を横に広げて俺たちを出迎えたのは、金髪をオールバックにした、鋭い陰険な目つきの、髭の立派な、仕立てのいい服を着た男。アレスタイン侯爵。

 これに惚けた様に返すのはキッドだ。


「これはこれは侯爵様。このような場所にどういったご用件でいらっしゃるので?」


「あぁ、二度目になるかな?こうして顔を突き合わせるのは。なぁ?キッド君。」


「そうですね。以前に侯爵様から「いい話」を持ちかけられて以来でしょう。」


「あの時は断られた事を凄く残念に思ったが、もう今はそう思ってはいないんだ。」


 キッドと侯爵の「話し合い」という戦いはまだまだ続く。

 しかしその光景は異様な光景だ。侯爵の後ろには五十人近い武装した厳つい男たちが控えているのだ。

 その男たちがこちらを威圧するように睨み、ニヤニヤ笑い、真剣な目でこちらを見ているのだから。


「そうですか。こちらとしてはあの時の申し出を断った事を申し訳なく思っておりましたが、あいにくと我々の活動方針と侯爵様の「お話」はすり合わせをする事すら困難だと判断しましたので。我々へ今も悪い印象をお持ちなのかと思っておりました。」


「なに、すぐに違う冒険者を雇ってね。その彼は非常に「使いやすくて」ね。あぁ、使い終わったモノはお目にかかったかね?」


 鋭く、そして陰険な目をこちらに向けて「バリドの死様を見たか」と言外に言ってくる。


「えぇ、見させていただきましたよ。「使い終わった」などと、残酷な仕打ちですね。アレではバリドが浮かばれません。」


 マーリが小さく「サイテー」とアレスタイン侯爵を睨み呟いている。


「ならば分かってくれていると思って話を続けよう。君たち「白牙」に改めて問おう。私の物になる気は有るかね?まあ断れば分かるだろう?」


「いやいや、何をおっしゃっているのか分かりませんね。前回お断りした通り。俺たち「白牙」は侯爵様の御力を求めてはおりませんので。」


「こんな状況でも心変わりしないのか。非常に残念だ。それではこの場で君たちには消えてもらおう。「光の輪舞」の敵討ちだな。」


「そのような事で変わってしまう心だったなら、あの時に侯爵様の申し出を受けていた事でしょうね。それにしても三十人も居て、たった六人に殲滅された冒険者の敵討ち?侯爵様はそもそも人を見る目がおありではない様子。そんなあなたの器はたかが知れていますな。」


 ぞろぞろと武器を抜き放ち始める侯爵の後ろに居るゴロツキ達。


「無礼な物言いは今回だけは許してやろう。そう、後は無いが、な。」


「そちらこそ良いんですか?そもそも迷宮に入り込めば、どんな立場の人間であろうともその地位、名誉も関係無くなる。権力ですら、です。ここでは命の保証は何人たりとてしてくれない自己責任ですが?例え侯爵様でも例外ではありませんよ?お覚悟はおありで?」


「ははははは!バリドから聞いている。奇襲だって?この人数を相手にこうして真っ向から対立している状態でお前たち「白牙」に何ができると言うんだ?さぁ、茶番はもうここらで良いだろう。残念だよ君たちは優秀な冒険者だったと組合には言っておいてやるさ。安心して死になさい。」


「ならば我々も自分の命を守るのに最後まであがくとしましょう。侯爵様におきましては一冒険者として処理させて頂きます。その際は冒険者要項において「襲ってきた奴らは皆野盗として処理」させて頂きます。」


「ふん!この私を野盗呼ばわりか。最後の最後まで気にくわない奴め。だがそれもここで終わりだ。さっさとこいつらを片付けろ。」


 その侯爵の一言でゴロツキ達は動き出した。こちらを圧倒的な人数差で囲うように動いてくる。

 こいつらは急遽侯爵が金で集めた集団のようだったが、動きに隙が無い。

 こちらはどんどんとゆっくりながらも追い詰められていった。

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