312 払拭
キッドは懐から懐中時計らしきものを取り出して時間を確認したのか止まる様に言ってくる。
「ここらで野営を取ろう。これ以上急いで戻っても体力を減らし過ぎて何かあった時の対処に不安が残る。」
流石に一流なのだろう。冷静な判断でペースを崩さない。体力の配分もわきまえているようだ。
(俺は全く余裕なんだけどね。まぁ、腹は減ってるかな?)
俺以外は大きく大きく呼吸をしていて少しでも疲れを回復しようとしていた。
そこからは毎度相変わらずいつもの食事と寝床の準備だ。魔法カバンから取り出してセットするだけ。
料理も下拵えの済んでいるモノをささっと調理するだけ。
なんて魔法と言うものは偉大なんだと思わざるを得ない。
「うまい飯が迷宮で食えるとか信じられないよな。これからは俺たちもコレ、マネして良いか?」
「迷宮内でここまで食事で不自由しないのは意気も上がる。」
「なんだか私、今回で魔法カバンの凄さを改めて見直したわ~。」
「あんたがいなけりゃ俺たちは今頃死んでた可能性が高いぜ。あんたが居て助かった。」
「それにしても今回、貴方への報酬は本当に?何も要らないのですか?貴方の今回の活躍はどれだけ金を積んでも足りない程ですけれど・・・」
「最初に言ったとおりだ。俺に関してはこの件が終わり次第、一切の事を口外しないでくれ。それでいい。」
俺のこの迷宮攻略は金のためにやった訳じゃ無い。
俺の持つ「何か」に引き寄せられて遭遇したイベントを、ここで片付けておかないと後でヤバいんじゃないか?と言う不安を払拭するためだ。
プライスレス、金に換えられない後悔がある。
なので報酬を一切受け取るつもりは無いのだ。受け取ったらそれはそれで縁が繋がる事にもなりかねない。その手続きが終わるまでは「白牙」と共に行動しなければならないだろう。時間も掛かる。
事が全部終わったら即刻その瞬間別れて今後一切接触しない。それが最もキリ良く関係を切れるだろう。
「後は侯爵がどんな風に接触してくるかだな。」
そう俺は口にした。警告だ。「白牙」はまだこの問題があると言うのに少し気を抜き過ぎていた。
だがあっさりとそれも躱される。キッドの言葉だ。
「あちらがどう来ようが、俺たちはそん時にやれる「出来る限り」をするそれだけさ。今その件に頭を使ってもどうしようもない。その分頭の中を空にしていた方がよっぽど有意義さ。」
「そうですね。今は充分な睡眠をとるのを大事にしましょう。」
フィルナがそう言って見張りの順番を決めるために皆と相談をし始める。
「俺は?」と見張りを今回は申し出て見たが断られた。
「あんたが今回どれだけの事をしたか分かって無いの?全く、何なのよあんたホントに・・・」
何故マーリに半ギレされたのか分からない。解せぬ。
「お前さんはあれだけ濃密な魔力をその身から噴出させていた死霊王を倒したんだ。一番の手柄はお前さんだろ?ここは俺たちが見張りをやらにゃ釣り合わないぜ。」
「見張りだけで釣り合うとも思っていないがな。この先の些事も全部俺たちが引き受ける。それでもまだ足りない位だ。」
メルギスもダンクも俺に見張りをさせる事はしないと言ってくれているので遠慮なく俺はテントでグッスリ眠らせてもらう事にした。
翌朝。早めに目が覚めた俺はテントから出る。そこにはキッドが火の番をしていた。
「よう、よく眠れたか?・・・なぁ?ちょっと話、良いか?」
そう言ってきたキッドの雰囲気が気になった。なので俺は再び二度寝する気も無かったので話を聞く事にした。




