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306  ギミック

「ミスリルのナイフだな。まぁまぁかな?他に入っている物は見当たらんな。」


 メルギスは立ち上がってナイフを俺たちの方に見せてくる。

 安心して近寄ってみるとマーリが如何にもガッカリとしていた。


「あーあ、初めに見つけた宝がそれじゃあね?幸先はよくないかぁ~。」


 俺は宝箱を覗き込む。確かに何も入っていない。だけど違和感がある。

 その違和感が何なのか考えているとキッドがメルギスに一言。


「そのナイフはメルギスが持っていてくれ。金に換算するよりも武器の充実の方が役に立ちそうだ。皆良いか?」


 それは別段反対をする事でも無かったらしく、皆は反論しない。

 けれどもメルギスだけは違った。


「このミスリルナイフ、付与されているのは魔力の上がる仕様だな。俺じゃ無くマーリかフィルナの方がいいぞ?」


 驚きに満ちているのはマーリ。


「うっそ!?マジで!?ちょ!ソレ私に頂戴!」


 跳びかからんばかりにメルギスの手からナイフを取ろうとしたマーリだが容易く躱された。


「ちょっと?何でよ!私に相応しいでしょ!?どうして渡さないのよ?!」


「これはフィルナが持て。回復できる回数が増やせれば生存率も上がるし、遠慮なく特攻もできるようになる。それにマーリ、お前はもう魔力を上げる道具はこれ以上持っても仕方が無いだろう?」


 ぐぬぬと口を悔しそうに引き結んでマーリは身を引いた。どうやら上限と言うものがあるらしい。

 そんなやり取りを横目に俺は未だに宝箱に目が釘付けだ。


「では護身用にでもそれは私が持ちましょう。さぁ、先に進みま・・・どうかしましたか?」


 ジッと宝箱を観察する俺にフィルナは不思議に思ってか声をかけてくる。

 それに俺は正直に答える。


「・・・なぁ?この箱、何か違和感が無いか?特にメルギス、どうだ?」


 俺の言ってる事が理解できないと言った様子でダンクが言葉にする。


「特に何の違和感も無いが・・・至って「普通」の宝箱だぞ?」


「・・・あんたが言うからには何か変な所があるんだな?分かった。もう一度調べてみよう。」


 何故かメルギスは俺に対して変に信用を置いているようで、再び宝箱を隅々までひっくり返してチェックし始めた。


「おいおい、どうしたんだ?何もおかしい所は見えないんだが?」


 キッドは訝し気にその様子を見ている。ミスリルナイフで上々だと言いたいのだろう。


「おかしいな。確かに重心が・・・んん?しかし仕掛けの一つも見当たらない・・・確かにオカシイ。」


 その言葉で確信が持てた俺は箱を床に置くように言う。


「何となく分かった。ちょっと離れていてくれ。」


 俺は宝箱の中、その底がどの位置にあるのか確認する。

 居合の構えになって俺は一気に刀を抜き放って底より少し下を斬り飛ばした。


「二重底か・・・こっちが本命ってヤツだな。」


 そこには白金貨が詰まっていた。


「すげぇ!コリャ大金持ちだぞ!ひいふうみい・・・五十枚・・・あ、頭がくらくらしてきた・・・」


 積み上げた白金貨を数えたキッドが眩暈を起こしている。


「重さを軽くする魔法が一々掛けてあったのか?それで重心がおかしかったのか・・・」


 メルギスがそう言ってしげしげと白金貨が入っていた箱を改めて覗き込む。

 その底には幾何学模様が幾重にも描かれていた。いわゆる魔法陣なのだろう。


「なるほどね。迷宮では魔力が大量に循環してるから、効果が切れない様に魔力を吸い上げる陣と軽量化の陣を上手く重ねてあるのね。これは確かに上出来だわ。」


 マーリが解説してくれる。流石魔法に関しては専門家だ。


「良くそんなのが看破できたなあんた。」


 ダンクが俺を褒めてくる。ただ単にミスリルナイフ一本だけしか入っていないのに、その底が宝箱の全体の高さと合っていなかった事が見て取れただけなのだが。

 本来ならメルギスが気付いてもおかしくなかった事だ。しかしここまでにイレギュラーな対応が続いて彼も本来の冷静さを発揮できなかったのだろう。

 オークの件、三階層の広大なフィールドの件、バリドの件、など。確かに彼ら冒険者の活動においてこれらは「今まで通り」とはだいぶ違う経験だったのだろう事はうかがえる。


「この先の宝箱も、罠も当然ですが、こうした隠蔽にも気を配らないといけませんね。注意を怠らない様にしましょう。小さい事でも気になったら言葉にして徹底して周知して皆で調べなくてはいけませんね。」


 フィルナがこうしてまとめの言葉を口にして一つ目の宝箱の部屋を後にした。

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