291 睨まれた
「休憩を取りましょう。迷宮に入ってだいぶ時間が経っています。一息入れましょう。」
夕方近くに迷宮に入ったのにこの階層は明るくて時間間隔が狂ってしまっていたようだ。
キッドが懐から何やら懐中時計のようなモノを取り出して確認をしていた。
先程俺に噛みついてきたマーリはと言うと、フィルナのこの提案で気勢を削がれたらしく大人しくなった。
それもそうだろう。美しく透き通る落ち着いた声で、それでいてハッキリと「落ち着け」という意を伝えているのが分かるような言葉の強さも入っていたのだから。
「もう既に夕食を取っていても良い頃合いだな。どうする?ここで野営をするか?それとも携帯食で済ませてすぐ一旦戻るか?」
キッドが提案する。それに答えたのはメルギスだ。
「一旦戻るのが安全だろう。新しい情報だ、この階層の件はな。相当な情報料を取れる。攻略はもう一度機会が巡ってくるくらいは余裕が有りそうだ。」
メルギスは積極的に安全を取るタイプらしい。流石に危険に敏感な仕事を請け負っているだけの事はある。
だけどもそれに反対したのはフィルナだった。
「最低でもこの階層を六割くらいは把握してからでないと戻れないでしょう。碌な情報になりません。今のままでは。」
「そうだな。二階層での事もある。探索はもうひと踏ん張り続けるべきか。」
ダンクがその意見に賛成の言葉を続ける。キッドもそこに続いた。
「まだこの階層で出てくる魔物も一種類しか遭遇して無いしな。しかもどんな攻撃を仕掛けてくるかとか、どんな特殊な生態をしているかとかが丸っきり分かってない。戦う、調べるにしても、まだこの時点でここで撤退は無いな。」
野営は確実にする事になりそうと言う所でマーリが口を開いた。
「あんたに聞きたい事が一杯あるの!教えて!あんたの使ってる魔法は一体何!?それを私はどうしても知りたい!」
開いたと思ったら俺への熱いラブコール。それも「魔法」に関しての。
(俺はまだ黒髪黒目な事すら隠しているからなー。彼女は魔法研究でもしているッポイから「マナ」やら「加護無し」なんて言うのを知っていそうだ)
もちろん俺は魔力なんて持っていない。魔力が無くちゃ魔法は使えない。
以前母が見せた指先に火を出すのを真似て自分でも使えないか試した事があった。
結果から言えば「無理」の一言。それこそ自分に魔法を使える「理が無い」という結論に至った。
幾らイメージを強く持っても、いくら唸って力んでみても、魔力の無い俺が「火よ」と唱えた所で一番簡単な魔法すら使えない。それが当然だと分かった。
なので今マーリに真実を告げる事は彼女に要らない心理的な衝撃を与えかねない。
それと詮索しないと言う約束もある。答える事はしない。
「俺の事が知りたいなら、あんたが「信用に足りる」と俺に思わせる事だ。」
「マーリ、控えて頂戴。今は迷宮の中よ?そんな中途半端な状態で居ては私たちの危険が増すわ。いい加減にして。」
結構な剣幕でフィルナがマーリを睨む。これにはマーリも言葉に詰まったようで黙ってしまった。
マーリだけでなくキッドもメルギスもダンクも少しだけ縮みあがっている様子だ。
きっと彼女は怒らせると恐ろしいのだろう。
そこに俺は空気を変えようと俺の意見を言う。
「さあ、どうする?野営はするとして、戻る?進む?それともこの階層の調査に留める?俺としてはもう正直に言うともうメンドクサイから休憩が終わったらそのまま迷宮主をヤっちゃうところまで特攻したいんだけど?」
この意見に「白牙」の全員が苦い顔をして俺を睨んできたのだった。




