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29  命の値段

 ここまで来る間、道行く人々から珍獣を見るような目で見られていた。

 アリルは素朴ながらも快活さを感じさせる顔で、俺の印象と相まって歩く姿はちょっとした「ちんどん屋」みたいになってただろう。

 俺が周囲をキョロキョロ見回していたので余計に。


「黒髪黒目なんてスゲー珍しいでしょ?だからそれ以上に目立ちたくないんだ。」


「分かりました。今回の件は話さないようにします。」


「ありがとう。助かる。」


「それにしてもお名前をまだお伺いしていませんでした。なんと言うんですか?」


「あー、さっきも言ったけど気にしないで。これ以上係わるつもりないから忘れて。別にお礼も要らないし。世間の一般常識をちょこっと教えてくれるだけで充分。」


「・・・分かりました。お名前はもう聞きません。ですがお礼は受け取って欲しいんです。けじめとして。」


 そこで扉がノックされ先程の女性職員がはいってきた。


「こちらが今回の保証金と慰謝料です。依頼料も返還させて頂きます。ご確認ください。」


 テーブルの上に置かれた革袋は拳を二つ重ねた大きさ。

 そしてそれには袋がパツンパツンになるほどの銀貨が入れられている。

 中からあふれ出しそうになる程の量。

 それを目にしてアリルは硬直し、次には恐るおそる枚数を数え始めた。


「た、確かに受け取りました。」


 その声は震えている。

 無理もない。大金だろう。

 百枚以上入っていたのだから。

 その金額が適正なのかは俺には判断できないが。


「では、お見送り致します。」


 そう言われて開けられたドアをくぐり部屋を出る。

 受付カウンターまで来たくらいでぼそりとアリルがこぼす。


「こんな金額になるなんて思いもよらなかった・・・どうしよう・・・」


 いまいちまだ現実感が帰ってこない俺は聞き流しつつ口が滑る。


「この世界の命の値段はどれくらいだろ?」


 野盗なんてものが出る世界。傭兵なんかがある社会。法律は?命の保証は?人権は?

 前世では俺は「死刑」肯定派だった。極悪非道は社会から即抹殺でいい。

 そんな思想だったので野盗をぶん殴る時に心は痛まなかった。

 ためらいは死を招くし、迷いで大切なモノが守れないよりかは、「悪即斬」。

 ましてや今の俺はこの世界での「良い」「悪い」を判断をする為の情報を持ち合わせていない。

 右も左もわからない自分の身を守る為には、その基準を自らの「精神」に置くべきである。

 思い返してみると、結構、俺は酷薄だった、とまた自分を見つめなおす。

 ここまでで、門での聴取でも、ギルドでも咎められていないのでセーフというのは分かった。


 取り合えず野盗の荷物からの金でそこそこ懐は温かいので、これ以上目立たないようにコッソリ潜伏しつつ常識を学ぼう、とボーっと思いながらギルドを出た矢先に、


「用心棒になってくれませんか?」


 アリルの突然の申し出が入る。



 その言葉にますます俺は現実感を削り取られてしまうのだった。

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