27 楽観、流される
連続ショックのせいか、頭の中がふわふわしてきて思わず考えてしまった。
(何で俺ここに居るのかなぁ?)
学生時はバイトしてたし、その経験で街に着いても「何とかなるかな」と楽観過ぎていたせいだと思う。
仕事は適当なお店に突撃して「働き口は無いですか?」と尋ねるだけだ、と、運が良けりゃそれで見つかるんじゃね?と。
なのに流されて行きついたのはアリルの「用心棒」。
何故こうなった?当然の帰結なのか?
俺は今、宿に居る。
アリルと相部屋で。
こうなってしまった経緯を頭を抱えながら思い出す。
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傭兵ギルド内は何処を見渡しても「頑丈」の一言に尽きる印象だ。
どれも武骨な飾り気のない内装は、清潔に保たれていて上品さすら感じられた。
「帝国からこちらへの護衛の依頼をした者です。保険金と慰謝料をいただきに来ました。」
アリルは淀みなくハッキリと言い放った。怒りも感じさせる絶妙な響きで。
たまたまなのか、そういう時間帯だったのか、この場にはほかの人間は一人もいなかった。
「しょ、少々お待ちください。只今責任者を呼んでまいります。」
受付の女性は一瞬慌てたが、直ぐに何時もの調子に戻ったのか冷静な対応をとった。
そしてカウンターの後ろのドアへとスッと入っていった。
それを俺はボーっと眺めていた。
(ギルドとかファンタジーじゃん?そこに今俺が居るとか?想像して無かった展開ですけど?)
今更になってまた現実感が失われていく感覚になる。
(ここにきて完全に「ファンタジー」って事を飲み込んだよ・・・)
そこに静かに音もなく現れた若い男が頭を下げてきた。
「お話は奥の部屋でお伺いさせて頂きます。申し訳ありませんが、どうぞこちらに。」
涼やかな声音でそう言うと、受付横の通路へと足音一つ立てずに歩いてゆく。
その後ろへ俺、アリルは続く。
一番奥のドアへ誘われ、その部屋へと入る。
そこは何の調度品も置かれていないシンプルな部屋で、テーブル、そこに4脚の椅子があるだけだ。
ツカツカとアリルは椅子へと歩いていき、勧められる前にサッと座った。
(え?何この妙な空気・・・何なんだ?)
会社員だった俺は、マナーというものに縛られていたため、この時のアリルの行動が読めなかった。
アリルは言うなれば被害者なのだ、怒っているという態度を前面に出して、ギルドに舐められないようプレッシャーをかけていたのだと後になって気付いた。
呆気に取られていた俺に、担当者と見られる男が椅子を勧めてきた。
「どうぞ座ってお話ししましょう。今お茶を持ってこさせています。まず一息入れてください。」
と言い終わると同時にドアが開き、受付に居た女性とは違う女性がポットを持って入ってきた。
テーブルにカップが並びそこに透明な薄茶色の液体が注がれた。
(紅茶?にしては香ばしいけど・・中国茶に近い?)
その香りにそんな事を頭に浮かばせるが、俺は別段、茶に詳しい訳でも無かった。
くだらない思考はお茶を一口飲む事で頭の隅へと流す。
ポットを持ってきた女性は音もなくいつの間にか部屋から出ていた。
「さて、詳しい話を聞かせて頂きます。」
担当者がそう言ったのを合図に、アリルはゆっくりと最初から事情を話し始めた。




