21 旅立ちの前に
ナイフの件があってからは絡まれなくなった。
清清した。だが人間の考える事とは我が儘なところもある。
少し寂しいと感じてもいる。
矛盾しているとは分かっているが、あの四人だけだったのだ。
親以外で接していた村民は。
(まぁ、こうなったからって、それを「惜しい」とも思わないけれどな)
前世の頃から友人は少ない方だったし、一人でいても何とも思わないドライな人間だった。
今さら別に気に留める事でもない話だ。
「さて、今日も畑に草刈して家畜に餌やり、空いた時間で筋トレしますか。」
俺は何もなかったかの如くに、日々の毎日の日課をこなすのだった。
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俺はもう14を早、過ぎて成人を翌日に控えていた。
月日の流れるのはあっという間で、もう明日には村を出る日になっている。
昨夜に荷物、旅の準備はしてある。でも何処へ向かうかは決めてはいない。
今日は早朝から父に狩りに誘われていた。
「これが最後になるからな・・・」
村を出たら帰っては来れない。それも条件の一つだった。
母は涙で赤くなった目で無理して笑ってくれている。
「特別だと思っちゃうから苦しくなるんだよ。もっと普段通りにしててよ。死んじゃう訳じゃないんだから。」
「でも寂しいわ。もう会えないと思ったら・・・」
また泣きそうになる母を慰める。
「ほら!俺が村を出るのは明日だよ?今からその時の分を絞り出しちゃうの?手紙だって出すって言ってるのに。」
少しからかうセリフを言って家を出る。
「行ってきます!大物獲って来るよ!楽しみにしてて!」
最初の獲物はサクッと見つかりパパっと手早く片付けた。
何時もならここで狩りを終わらせるか続けるか迷うところだが、父は何だか張り切っていた。
「最後の晩餐だからな。豪勢にしたいんだ。」
「何時も通りの毎日の延長線で送り出してくれるだけでいいのに。その方が感情の起伏は小さくて済むよ?」
「難しい事を言わなくていい。お前が一人前になり、その独り立ちの門出を祝いたいんだ。父として。」
「そんなに張り切らないでいいってば。大袈裟だよ。」
だが俺は父の愛情の大きさを心の底から感謝していた。
(よし!ここは一つ、俺の力を使ってでも大物を狩ろう)
(うわぁ・・・これそのまんまだよ・・・モンスターをハントするやつ・・・)
「ドス・・・・ファン・・・猪・・・?」
そいつは森の奥から現れた。今までこんな大きさの獣は見た事が無かった。
(これって「ヌシ」ってやつ?・・・大物じゃね?よし!いっちょやったるかぁ!)
この村での最後の狩りだと思い、今まで父にも母にも隠していた力を出すつもりになった。
足元に落ちていた小石を拾う。
(ちゃんと自分の力がどれ位なのか量るチャンスだしな。最初で最後かもしれないからな。)
今まで機会に恵まれなかったので、ここぞと言わんばかりに気合が入る。
そう思いながらポイッと獲物目掛けて放り投げる。
外れず当たった石に気を取られたヌシはこちらに跳びかかってきた。
世界はスローモーションで動いている。
俺は「加速」に入っていた。
(さて、突進タイプの必殺技にはアレで迎撃ですよ)
普段はこんなに調子に乗ったりしないが、この場に至っては諸々の事にテンションが上がっていたので悪ふざけが入ってしまう。
(小学⦅低⦆くらいの時にマネして遊んだよね)
赤いハチマキ、白道着、自分よりも強い人に会いに行く格闘家の構えを取る。
遠慮は無しに力を込めて、あの掛け声と共に、ゆっくりと迫って来るヌシの横っ面に、ジャストなタイミングを狙って、拳を振り抜く。
「し◯うり◯うけん!」
「ドゴォン!」
その音は魔獣を殴り飛ばした時に発生した衝撃だった。
既に次には巨体が地面に「ズドン!」と突っ込んで振動が辺りに広がった。
俺は反省していた。それを誤魔化すためにさっさと血抜きの用意に入る。
(恥ずかしい事をしてしまった・・・格ゲーに飢えていたとはいえ、いくら何でも・・・これは無いやろ・・・いい大人がよりにもよって・・・)
あまりにも独りよがりな恥ずかしさに耐えきれず、思わず父に色々と突拍子もない言い訳をしてしまっていた。
吊るした獲物の首筋を剥ぎ取り用ナイフで掻き切り、血が抜けきる間に、先ほどの事を考えた。
(全力で・・・殴った訳じゃないんだが・・・ヤバいぞ・・・自分の力の底が見えん・・・モーションをなぞって軽めに振り抜いただけなのに・・・この威力!?)
徐々に力を入れ何発か殴り、コントロールもかねて段階的に量るつもりだったのだが、一発で計画は水泡に帰した。
(マズイ何てもんじゃないぞ・・・封印モノだコレ・・・やたら使えねぇ・・・)
血抜きが終わり後始末を終えた所で思考の渦から抜け出してくる。
「早く帰ろう父さん。母さんが待ってる。遅くなっちゃったね。」
大物を朝の宣言通りに獲れたのはよかった。
力の限界が見えない、という苦悩は新たにできたが。
ついでに、軽々と巨体を持ち上げる、延いてはそれができる自分に向けられた父の顔が引きつっていたのを、気付けなかったのだった。




