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201  目指すべき場所

「と、言う訳で。約束は守って頂けますよね?」


 俺は口約束でしかないそれを遵守してくれよとマーデンに迫る。


「あ、調教師の方もお願いしますね。あ、貴方が俺に送った刺客が伝言を伝えてくれなかったみたいなので今言いますね。商業都市のダモーって知ってますか?」


 どうでもいい事を質問されているとマーデンは思っているのか力なく返事をしてくる。


「・・・それがどうかしたのかね?」


「あぁ、まだ情報はこちらに回ってきていないのかな?あれの組織は俺が潰して再編しました。」


 俺は潰しただけ。再編はエルトスが、なのだがここでダメ押しの脅しを掛けるためにそう言っておく。

 疑いの目をこちらに向けてくるマーデンはまたも呟くように言葉を吐く。


「・・・嘘だろう?そんな訳が・・・」


 混乱しているマーデンに「調べてみればいい」と俺は一言告げてその場を後にした。




 街中に出るとそこらじゅうが朝の賑わいでうるさいほどだ。

 それは魔獣の素材が大量に出回った事による活気だった。


「これから王国に向かうのは良いとして。どんな手段で向かうか、だな。」


 村から出た時は自らの足でしか向かう方法は無かった。だけど俺はそれをランニング程度の気持ちで走ったがためにアリルが襲われる所に遭遇した。

 商業都市から帝国への道はエルフという同行者がいたのもあってこちらも徒歩による旅になった。

 途中で何度もフラグやエンカウントがあり、結構な密度で「普通」からかけ離れたものになっている。


「俺が目指すのは「普通」だ。指標ができて目の前が開けたようだな。」


 俺の結論は「普通」を目指す事に決まった。

 今までがあまりにもはみ出し過ぎていた。まあ「普通とは何か?」何て問題はここでは無視だ。話が進まなくなる。そこから俺は考える。


「普通の旅をする人は例外を除いて無力な人だろう。それが一般的だ。だから俺もそれを見習う。さて。」


 商人は傭兵を雇って道中の安全を確保する。当然金が掛かる。結構な金額が。

 それが出せない普通の人は、ではどうするのか?弱い生物は集団になって命の危険を自分に向けられる確率を減らして生き延びる戦略を取るものがある。

 そう、寄り合ってその金を出し、傭兵を雇ってまとめて移動する方法を取るだろう。寄り合い馬車だ。

 少ない金額で戦力が確保でき、自分と同じ存在が複数いるのだから危険が自分に迫る確率は下がる、もしくはその時に逃げられる確率は上げられる。

 俺もその中に入り込めばいい。また一人で走って王国に向かうとか馬鹿な真似をすれば絶対に今までのパターンで「引っ掛かる」予想が立つ。


「よし。王国行きの馬車はあっちの門か。」


 周囲の人に馬車の出る門を訊ねながら向かった。知らない事は知っている人に聞けばいい。

 何せ恥ずかしがることは無いのだ。俺はお上りさんなのだから。いかにも俺は「田舎者です」という空気を出して道を聞くと案外親切に教えてくれる。

 途中で不安にも駆られたが何も起きなかった。喜ばしい限りだ。俺が黒い髪、黒い瞳をしている事にも追及はされなかった。ただ「珍しい」とウンザリするほど言葉をもらってはいるが、それ位だ。


(何かと絡まれてフラグが立つかと思ってたけど、親切な方々ばかりで癒されたな。ここ最近はひねくれてたから心が。優しさが染みる・・・)


 普通を目指す効果がここで既に現れたと思った。最初から何故こうできなかったのか。悔やんでも仕方が無いのでこの先の未来に期待する。


 到着した門には俺と同じく王国へと向かう人たちが集まっていた。


「えー、何何?帝国発、王国行き、銀貨三枚。詳しくは門番まで。」


 立札に説明がザックリ書いてあった。それを読んで門番に詳細を聞きに行く。

 俺はこの世界の事を何も知らない。この金額が適正なのかも分からない。だから遠慮も、畏まる事も、卑屈になる事も避けようと思っていた。

 俺がこの世界の「普通」を目指すなら、この世界を自ら「知りに行く」事を求められるからだ。


「すいません。馬車の利用説明を聞きたいんですけど良いですか?」


「ん?アンちゃん若いのに一人旅か?荷物も少ないな?家出か?」


「違います。拠点を王国にしたいと思っているだけで。」


「ならこいつに料金を支払ってくれ。まだ出発時間には少しある。色々済ませときな。」


 門番の隣には品のある老人がいた。だが肌はよく日に焼けていて目深にフードを被っていた。


「まだ契約していた傭兵の方は到着していません。それまでは今少しお待ちください。」


 料金をその人に払って俺は門番にトイレの場所を聞いて用を済ませる。

 立札に何故門番への案内が書かれていたのかと言えば、門番は馬車でこの帝国を出る者を監視する仕事なのだろう。俺は以前にエルトスが用意したカードを門番に見せたが、門番は俺の顔とカードを驚いた様子で何度も往復して見つめてきていた。


「長距離バスの様な感じなのかな?あ、俺そもそも利用した事無いな。」


 前世の仕事関係で全国を出張していた訳でも無いので、長距離バスやら新幹線などを利用した事が無い俺。前世ではだいぶ小さい世界で生きていたんだとなとしみじみする。


 そんな事を考えていたらやっと傭兵たちが来たようだ。


 その中に以前関わった傭兵たちが混ざっていた。


(・・・余計なフラグが立つ予感・・・いい調子でここまで来てたと思ったらこれか・・・)


 上げて下げる、ではないが馬車の旅にワクワクしていた俺の心に突然の暗雲が立ち込めるのだった。

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