表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/1346

2  異世界と自分

 目の前が真っ暗だ。いや、これは目を固くつぶっているようだ。

 しかも先ほどから赤子の泣き声が聞こえている。


 不意に違和感に気付く。


(なんで、俺は、いや、これはどうなっている・・・!?)


 違和感と共に巨大な混乱が脳内で渦巻く。

 それは泣いているのが自分だと認識したから。


 そこへより一層の拍車をかけるのが、聞いたことの無い言語で聞こえてくる会話だ。


「*+?>=~’&%$#”」

 若い女性と思わしき声。何となくだが、喜びと慈しみに溢れているように聞こえる。


「¥*+;‘$%%##$」

 力強さを感じる男性の声。こちらは感涙にむせび泣いているようだ。


「<?#’%&$=~‘*:*+*=)’&%$」

 しわがれで必死に叫んでいるような老婆の声。驚愕して慄いているみたいな声。




 俺はもうこの時点でパンクしていた。

 現実逃避を敢行する。今、理解できない事は後回しだ。

 いずれ解決すればいい。昔の人は言っていた。


(明日できることは今日しない!)


 自分の置かれている状況を把握できなければ先へ進まない。大切なのは今、そして自分だ。


(まず、俺は赤子だという認識・・・だが身体の自由はきかない。)


 しかし意識は隅々までいきわたらせる事ができる。が、まるで自動で動いている。


(本能って感じだ、赤子がする反射、、、こういうの何反応って言うんだっけ?)


 思考があらぬ方向へと行ってしまいそうな所へ、口へ何かがあてがわれる。

 それをさも当たり前に必死に吸い付く。


(あ・・これはまさか・・)


「#(|^--09(’$%4」

 優しい声と抱きかかえてくる腕の感触。授乳だ。


 この時点で意識がはっきりした。自分が赤子になっている事実に。


(まてまて、俺は何者か思い出せ!最初からだ!目の前が真っ暗、それよりもっと以前の自分自身だ!)


 授乳している間、男性と老婆が声を荒げて言い争いをしているみたいだったが、気にした所で意味など解らないので、俺は意識を思い出す事に集中した。



 =======================================================================






 俺は斉藤瞬一、ごく普通のサラリーマン。営業だ。



 28歳、独身。一人暮らし。両親はもう他界している。親戚は知らん。

 天涯孤独とは響きがかっこいいが、言ってみればよくいる一般人だ。



 趣味は格ゲー。だが、アクション物も好きだ。シューティングもそこそこ。パズルゲーも嫌いじゃない。いわゆるゲーム好きというやつだ。

 格闘技観戦なども大好きで、空手、ボクシング、柔道、プロレス、テコンドーに中国拳法、剣道、居合、合気道と興味を惹かれるものは何でもかんでも観戦した。


 いわゆる強さに憧れた中二病が未だに抜けない、こじれた大人だ。


 そのこじれ具合は小学からの筋金入りだ。親に空手の習い事をしたいとせがみ、3年、柔道2年、剣道2年。

 高校に入った時にはゲームにシフトしていた。友人たちとゲーセンに連日通っては対戦三昧。バイトもして金を得て、コンシューマー機を買い休みの日なんかは徹夜して遊んだりした。


 ここら辺までは普通だろう。一般的には。だが。


 そしてそればかりか、就職してからは悪化している。

 筋トレをし始めた。挙句に拳法に居合と節操無しに習い始めた。


「自覚してるよ。呆れられてもしかたない。自分でもこのエネルギーがどこから湧いてくるのかわかんねーもん。」


 同期の同僚に趣味を聞かれ正直に答えた時に、「お前なんなの?変人だ!いや、変態だ!」などとドン引きされた事は忘れられない。


 実家暮らしで、働いて稼いだ金に余裕ができてこんな暴挙に出た事は否めない。

 2年前に親が立て続けに亡くなっても、筋トレは欠かさずにしていた。

 この時点で習い事は辞めていたが、型稽古だけはラジオ体操代わりに毎日していた。


 もうここまできたら病気の一種だ。一般人とはかけ離れている。


「いや、分かっているんだ。この情熱を別の何かに向ければ、もっと凄い結果が得られるなんて、でも無理なものは無理。」


 独り言をはく。そんなことが容易くできれば問題にならない。

 出来たとしてもしない。なぜなら、


「俺はこれが楽しいと思っているから。さてと、明日の休みの為に早めに寝よう。」


 どうしてここまで鍛える事に夢中なのか?そのきっかけは何だったのかもう忘れて分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ