189 目的
「先ずは何から説明したら良いモンか・・・そうだな先ずは俺の質問に答えてもらうか。」
ここは長老の住む家のリビングと言えばいいだろうか?結構な大きさのコテージの様な造りの家屋。
そこで俺はデカいソファーにどっかりと座って独特な苦さのある茶を飲んでいる。
あらかじめ毒が入っていないかはセレナが調べてくれた。俺はそんな事を気にせずに飲もうとしたのだがセレナに止められている。
(こんな風に暗殺とかも俺はされたら回避するのはムズイな・・・)
ここまで来て毒殺されて人生終了とか冗談でも笑えない。
この世界に積極的に絡む気は無いが、だからと言って生きているのに一々死を選ぶのはナンセンスだ。
思考がそれていくのを軌道修正して俺は言葉を紡ぐ。
「この森って魔力や生命力が異常だよな?そもそもその原因を作っているものがあるんじゃないか?それこそ世界樹、もしくはユグドラシルとか?まあ言い方や表現はどうだっていいけど、そんな大本があるだろこの森には。」
俺のその言葉に長老が警戒を最大限にしたようで表情が硬くなる。それどころか俺を睨んでくる。
「お主・・・どうやってそれを知った?理由如何によってはこの森から出すわけにはいかん。」
その脅しと警告を無視して話を続けた。そもそもエルフには俺に対するそんな力は無い。実力試しはもう終わったのだ。しかも「敵わない」という結果を出して。
「それとそんなのが「あるはず」なのにどこにも見当たらない、感じない。それだけご大層なモノなら目立ってしかるべきさ。」
この場にはセレナ、長老、俺しかいない。何故セレナまで居るかと言うと、長老の言葉だけでは信用できないのでセレナにも話を聞いてもらい判断させるためだ。
先程とは違って黙って次の言葉を待つ長老は皺の多い顔をより一層しかめる。
「俺の予想だとそれは「失われて」るんじゃないのか?しかもそれこそ遥か太古に。」
俺はゲームの設定やキャラの裏事情なんかが結構好きで、そういうのを調べたり想像するのとかが好きだった。
「俺の推理だとその「残り」が魔力を放散してるんじゃないか?しかも漏れ出し放題って感じで。」
長老は立ち上がりその手の平を俺に向けて魔法を放つと言ってきた。
「これ以上は言うな。言えばこの場でお主を殺す。」
「この話は禁句だったのか?それとも突然現れた人族がこんな話をし始めた事に危機を感じたのか?だけど、この話は最後までさせてもらう。そうじゃなきゃ俺の「提案」ができない。」
俺は突拍子も無い話だと、ただの妄想だとそれ位にしか考えてなかった事が「瓢箪から駒」だった事で正直コワイ。
(ご都合主義ルート突入?いや、そもそもファンタジー・・・とか言って一括りにする話でも無いか・・・)
例え俺には現実味の無い事でも、ここに、この世界に俺が「生きている」事は事実なのだから夢幻と流してしまうのはいけない。
「主様、それだけのお考えを一体いつになさったので?」
「ゴブリンの洞窟からここまで帰ってくる間にだな。」
さて、と言って俺はお茶を一口飲むと続けて話をする。
「その漏れ出した魔力を使って「結界」を作ってるんだろ?かなりの範囲を覆ってる所からして莫大だな魔力の量は。それと、その結界の中心はここだろ?」
そう言った俺に炎の球を長老は放ってきた。
しかしそれも横合いから水球がぶつかり対消滅した。それはセレナが放った魔法だった。
「長老!どういうおつもりか!?このようなマネはいくら長老の立場であっても許しません!」
「邪魔をするなセレナ。こやつは生かしておけぬ!」
正直、セレナに助けてもらわなくても簡単に避ける事はできた。だが、ここで俺はそれをするつもりが無かったのは単純にセレナが動いたことを勘づいたから。あと避けて床が燃えたら火事になるかと思って。
「それとセレナから聞いたが、「樹」の精霊を歴代の長老は受け継ぐんだろ?それって世界樹の一部って奴じゃないのか?」
俺はどんどんと想像、妄想を口にしていく。とりあえずそれが間違ってても良いのだ。
合っていても間違っていても最終的にする事は「迷宮核をエルフに押し付けて管理させる」のが俺の狙いだからだ。
「それこそ、その事実は長老だけが受け継いできたんだろ?エルフと言う種を守り存続させていくために。」
「・・・何故それをお主が知っている・・・?やはり生かしてはおけん!」
再び俺に魔法を撃とうとしてくる長老にセレナは剣を抜き、一息に間合いを詰めて長老のその首へと刃を振るう。
すかさず後ろに下がって長老は危機を逃れるが、俺はそんなのお構いなしに話し続ける。
いい加減話がこのまま終わらずにグダグダするのはうんざりだから。
「その世界樹がどうして失われたのかは俺も知らないがな。そこで提案だ。迷宮核、それを使って魔力の流れを管理しないか?」
俺の提案に驚いた顔をしたのは長老だった。
「広大な森を駆けずり回って迷宮核を小さいうちに潰してるって話だが、そもそも魔力が滞留したり濃かったりする場所が出るからそうなるんじゃないか?」
「そうですね、今までの核発生の予兆はいつも魔力が淀んだ場所でした。」
セレナが長老の動きを警戒しつつも俺の予想が合っている事を告げる。
「ならそれらが流水の如くに管理されていればいい。駄々洩れだからそんなのができるんだ。それならこれを機に改めればいい。これだけ大きい核ならそれも可能なんじゃ無いか?」
セレナと長老との間にはまだ緊張が張り詰めている。
それを横目にしつつ俺は話を続ける。
「迷宮核を駄々洩れの中心に置いて魔導器で補助をするんだよ。ホレ、これで。」
そう言って魔導器を取り出す。それは傭兵どもから森で取り上げた魔導器だ。
これは結界を緩和し誤魔化す効果がある。
「これを弄って使えないか?魔導器を改造できるエルフがいればの話だけど。」
丸投げ、そう、ここで全部エルフに丸投げだ。後の紆余曲折、創意工夫に苦慮苦労などは俺の知らない所でやってもらうのだ。
魔導器をセレナに渡す。俺が持っていても使い道は無いし、むしろここで使い道ができたと思う方がいい。
「細かい事はあんたらに任せる。俺はそうゆうのは専門じゃないからな。」
こう言っておけば完全に俺の手からこの案件は離れたも同然だ。
そこで長老が俺を睨みつつも問いかけてくる。
「お主・・・一体何が望みじゃ?何故それほどまでに我々に干渉する?」
「・・・何も。」
「・・・何も?じゃと?」
「そうだよ。別に望みとか何とか、そんなので動いてない。干渉とかとも思ってない。」
「だとしたら何じゃと言う?」
「・・・ケジメかな。貸しとかそんなのも言う事は無いから安心しろよ。」
(ここまでの流れが上手くいき過ぎて不安になってきたな・・・だけどきちんとやり遂げないとな)
最後に一番大事な事を言ってお終いだ。ここまで来るのに余計な事があり過ぎた。
ようやっとここまで来た目的を遂げる事ができそうで安心して喉が渇いた。
俺はお茶を飲み干して真面目な顔で「最初で最後」の命令を口にする事にした。




