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181  当たらなければと言う例のアレ

 俺は逃げる心の準備ができていたので、かろうじてその初撃を躱す事ができた。

 その鞭はダーリアが微動だにしていないのに勝手に動いて俺に向かってきていたのだ。

 ギリギリ「加速」に入って対応ができたと言えども、その鞭の先は俺の鼻先まで来ていてそれを見て冷や汗が出た。


(痛いのは勘弁だぜ・・・しかもこんな真正の変態を喜ばせる趣味も無いしな)


 俺が意識しているなら対応は可能だ。だがその認識外からの攻撃は避ける事ができない。

 こんな「力」を持っていたとしても所詮は一般人なのだ。かろうじて前世で格ゲーが好きだった事もあり、反応速度は自分ではそれなりと自負してはいたが。

 だが「鞭」と言うやつは先端の速度が音速を超える。見えてからじゃ遅いと言う奴だ。

 その初撃が当たっていればダーリアは一方的に俺をなぶり続けただろう。

 俺だって自負はあってもそんな人の認識できる領域を超える攻撃をしかけられたらひとたまりも無い。

 当たっていたら痛みで意識が散ってしまって集中するどころでは無くなっていただろう。


(さて、セレナが言ってたな・・・鞭を風の精霊魔法で自由自在・・・だったら奥の手がもっとあるな。それこそ風って奴は「無形」だしな)


 逃げる機を逃がした俺はここで腹を括ってしまった。「どうでもいい」ではなく「どうとでもなれ」という気持ちに切り替わった。


 ===  ≠===  ====




「何でアタシの鞭が一つも当たらいのさ!?どういう事なのコレは!」


 辺りは鞭が空ぶって地面に当たり削れたところが幾百とできている。


「こいつは一体何者なの!?クッソ!当たりなさいよ!これじゃ余計にイライラするじゃない!」


 ダーリアは叫びつつ目の前で鞭を紙一重で躱し続けるその人族に苛立ちを募らせ続ける。


「あーもう!奥の手使ってあんたをバラバラに引き裂いてやるんだから!コレまで使わせたあんたが悪いのよ!後悔しなさい!」


 風の精霊魔法で縦横無尽に動き回る鞭と、もう一つ、黒い一筋の線がダーリアの指先から放たれる。

 それは触れた物を引き裂く凄惨なる鞭。


 ウォータージェットカッターと言うのを知っているだろうか?

 加圧された水を小さい穴から噴出させて物を切断する。その水には研磨剤などが入っていて固い金属でも切断できる恐怖の技術。こそげ斬るとでも言うのか、削り斬るとでも言うのか。

 その水圧は高速・高密度・超高圧でそのエネルギーで切断する。


 だがこの風魔法はそこまででは無い。無いがその威力は近いものがある。

 黒いその筋は管状でその中で塵や砂、粒子状の石などが高速回転して循環しつつ対象物を削り斬る。

 その回転数はどれ程かは分からない。だがこの世界で作られる鉄製の鎧すら切り裂くと言えばこれほど恐ろしい代物は無いと思える。

 そんな硬度を持つ物すら容易に切断するのなら、それよりも柔らかい物なんて容易に切り裂く事が可能だろう。


 それをダーリアは使用した。それこそ自らの苛立ちを静めるためだけに相手の命などお構いなしに。しかし。


「何でよ!何でこれだけの密度でもかすりもしないのよ!?」


 ムキーと言わんばかりに必死で一撃を入れるために頭に血を上らせるダーリアは、今までで一番と言えるだけの密度で鞭を操る。

 それは己でも自覚できない程の限界を超えた速度、密度で鞭が振るわれていたが、次第に疲れでその攻撃にはキレが無くなり始め衰えていく。


「この!この!こんな!こんなはずじゃない!こんなはずじゃなかった!」


 始めの時のあれだけの強気は次第に萎んでいき、それに合わせて風魔法で操っていた鞭がヘロヘロと動かなくなっていく。

 黒い筋「一陣の風」という魔法も次第に威力が無くなり霧散する。

 ダーリアはいつの間にか肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返していた。

 その場でへたり込み地面に座り込んだダーリアは降参の意を告げる。


「・・・まいった・・・わ」


 そうして起き上がるとトボトボと門へと歩み始めた。その後ろ姿は非常に小さくなっている。

 そこで門が開き一人の男が入れ替わりで出てくる。


「やあダーリア。コテンパンにされてしまったね?あれだけの攻撃を避ける人族なんて聞いた事無いよ。あの力量はもう遥かに我々を超えるものだし、残りの僕たちですら勝てないのにね。」


 これでもまだ最後の五人目まで長老は戦わせるらしく、その言からして残りのエルフ三人は俺の強さを認めているらしかった。

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