18 因果関係
俺たちは今、村長の家にいる。
「事情は分かった。この際だ。この場で言える事は全部お前たちに伝えておこう。」
村長はそう言って水を一口呷る。
先程まで話していたのは父だけで、その様子は淡々と事実だけを述べるものだった。
その間、誰も声を上げはしなかった。
四人組は村長に自分達がしていた事が露見して萎縮して。
俺は報告の内容に付け加える事がないから。
「先ずはお前たちだ。何故そのような事をした?」
「こいつは疫病神なんだ、災厄をもたらすから早く追い出さなきゃ・・・」
「その言葉はお前自身の本心の言葉ではないだろう?親から聞いたものをそのままお前の口で繰り返しているだけに過ぎん。」
優しい口調で否定をする村長。
だが彼らにはそれだけで充分だったようで、見る見るうちに顔が青ざめてゆく。
四人組リーダー、彼は自分の父親よりも上の立場の村長の言葉は、素直に聞く耳を持てるようだ。
だが最後に必死の抵抗を試みるみたいだ。
「こいつがいると村の活気が無くなるって・・・」
「そもそも村の者たちはこやつに関わり合いなぞ持たんし、ましてや今では気に留めてすらおらんわ。逆にここ近年は豊作が続いて皆、活気付いてるわい。」
「災害があるのはこいつが・・・」
「三年に一度、大雨で被害があったりしたが、そりゃ大昔からあった事だ。こやつは関係無い。お前たちが生まれた年には治水工事も上手くいってその後は被害なぞ皆無じゃぞ。」
「こいつがいるだけで村に不幸が・・・」
「何を言っておる。子が産まれた家も多い。皆毎日笑って生活しとる。仕事も順調過ぎる位、問題なんぞ無いぞ。不幸と言ったら、あるのは村門そばに住んどった婆さんが寿命でぽっくり逝ったな。それしかない」
村長、ドSですか?容赦ない現実の弾丸オンパレード。
彼、「orz」状態ですよ?
それにしても、リアルorzを目の当たりにすると「ご愁傷様です」て浮かびますネ。
「では次はお前じゃな。よく聞けよ?」
お手柔らかにしてほしい、とは口にできない。
心にグサグサ刺さる知らなくていい事実は聞きたくありませんよ?
「問題があった場合それが、おぬしが直接の原因でなければ、成人まで村に住んでいてよい。だからこそ村の者に近づかないようにさせたのだ。また、だからおぬし自身にもそれを守らせた。」
触らぬ神に祟りなしってやつだ。村長は現実主義者で人情家なのかな?
「先ほど言っていたように、今まで何ら問題は起きておらん。このままであれば何も起きる事は無いじゃろう」
ふー、と息を吐く。村長のお墨付きをもらえた。
父も隣でほっと一安心した様子があった。
だがやはりこればかりは変えられない条件のようで、
「だが、やはり不安が払拭できぬ者もおる。この先何があるか誰も分からん。それが決しておぬしのせいではなくとも、な」
事が起きた後、無理矢理に、行き場のない、やり場のない気持ち、そのはけ口の対象に、俺がされるって事か。
「問題を起こせば即追放、だがおぬしは今まで何も起こしとらん。皆が存在を忘れる位じゃ」
少し冗談めかしてそう言われる。
まあ今回の件は徹底的にやると決めたので、問題と言えばそうなってしまうだろうが。
「成人の歳まで村に居させるのは責任をとるためだ。ギリギリな所なんじゃ。この村に生まれたからには、せめて、とな。」
そう言って父の肩をポンポンと叩く村長は、父を労っているみたいに見えた。
ここで改めて父の強さを感じて、心に熱い気持ちが満ちてくる。
そこでプルプルとorz状態で打ち震えていた彼が、突然勢いよく立ち上がりながら叫んだ。
「お前さえ死ねば!問題なんて何も無いんだ!」
彼はズボンのポケットの中に隠してあったナイフを取り出して、こちらに憎悪の表情と共に向けてくる。
(うん、まあ、刃物持ってたのは知ってた。だってポケット不自然だったの見えてたし)
そして予想もしていた。当たって欲しくはなかったものが。
(こいつの親が弓だけで終わるとは思わなかったんだよなぁ・・・だって陰湿が過ぎるもん)
彼らに問い詰めた時に、最終的に求めるモノ、辿り着く所は「死」だと考えが行きついていた。
(最悪の事態は、彼が、俺を、刺して殺す。直接手に掻ける事。その為に渡しておいたんだろうな)
あわよくば、災厄を取り除いた村の英雄だ、と自分の子を利用して地位と権力を持つのを画策した?
(まさかそこまでは無いか。妄想の域を出ないな)
俺はナイフを向けられているのにも拘わらず、ゆっくりと思考する。
何故ならナイフは一向に進まず、その場に留まったまま。
(俺の中の「スイッチ」が入っちゃってるからな)
それは、丸丸九のどこぞのジョーさんもビックリな「加速」だ。
俺は頭の中の「スイッチ」を入れると周囲が止まってしまう。
正しくは俺が「加速」して世界の時間軸から外れるって事なんだが。
しかもその「ギア」もコントロ-ルできてしまう。
全く周囲が動かない位から、ちょっと早めなスローモーションにまで幅広く意思一つで自由自在にできてしまう。
できてしまうのは何が原因か?
それは絶対に「加護無し」が原因だ。
そんな「加速」に耐えられる肉体なのは何故?
筋トレしてたからだ。毎日欠かさず。笑う所ではなく真面目に。
あながち間違いでもないように思っている。
その根底にも「加護無し」が関係してるとにらんでいるから。
加速している中、思考が間に合うのは何故?
やはりこれも「加護無し」だろう。
だがこれにはきっかけがあったのに気付いた。
(俺、あの神殿で光を浴びないためにどうすりゃいいか考えたんだよな)
あの時は思考がやたらとクルクルと明晰に高速回転した。
それの状態がこの「加速」に合わさっている。
ここまで予想できていながら「加護無し」がどんな理屈で俺の身に変化をもたらしているのかまでは解らないが。
(加護があったらこんな状況にはなってないんだよな。いっその事あの時、光を浴びてりゃ・・・でも・・・)
俺は結局「俺」でいる事を選んだのだ。
(あの時の必死さを嘘にしてしまうような事を考えるのは止めよう)
どっちにしろ答えなぞ分かり切っている。
「答えなぞ出ない」があるばかりだ。
しかし望んでもいない現状、状態である事も事実だ。
俺は元に戻って格ゲーがしたいのだ。無理な事は承知で。
日に日に克明に思い出される、在りし日の格ゲー。
この際だからもう隠居生活でもして今後の人生を懐古厨になって引きこもりたい。
往年の名作を脳内対戦し続けて過ごしたい、せめて。
うん、人生の目標が決まった。成人して村を出たらそれを糧に生きよう。
頭がバグってあらぬ方向に行ったが、思わぬ収穫もあった。よし!
この辺でいい加減現実を見よう。
長考、だが、実際にはわずかの時間だけしか進んではいないこの状況で、やっとナイフへと目を向けるのだった。




