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175  挑発

 昼は何の問題も無く済ませる事ができた。一応ゼナンにもお裾分けして一緒に食事をした。


「野営での昼がこれほどまでとは・・・一体何なんだ?」


 俺たちが食べた昼飯にゼナンはずっと驚きっぱなしの様子だった。それも食事の準備の時から。

 帝国で調味料を大量に購入していた。本来ならこんな森の奥での食事ともなれば簡易的な携帯食料、干し肉やら固めに焼いた日持ちするパンなどをかじる程度なはずだろう。だが俺たちは違う。

 器具やテーブル、椅子を用意している事、魔獣の肉に味付けに塩コショウ、スープには新鮮な野菜を投入、調理が本格的な事に唖然としていた。

 それを放っておいて食べ終わった俺たちはお茶を啜って一息つきながら、片付けをしている。


「・・・貴様、何故これほどまでに落ち着いていられる?そもそも早くこの事を長老に報告せねばならないのにゆっくりしている暇なぞ無いのだぞ?」


 幾分かゼナンは焦っているようだ。一番の問題のゴブリンキングは討伐してあるので別に急ぐほどでも無いのに。後は事後処理をどうするかだけだ。あまり急いだところで良い考えが浮かぶ訳でも無い。

 だけどそれを素直に伝えるような関係性をこいつと築いてきた訳じゃ無いので別の答えを口にする。


「お前は忘れっぽいんだな。言っただろ?俺はセレナたちに頼まれた。だからエルフの長老は関係無い。俺がしたい事をしたい時にやる。必要だと思えば誰の許可なくする。自由ってやつさ。」


「ゼナン、お前は主様に文句を言える立場か?しかも主様が居なければこの森の危機だった。それを解決に導いた主様に感謝の一つも無い。ここまで来てもお前は何も変わらない。本当にエルフの風上にも置けん。」


 セレナから非難されて「ぐっ!」と呻きがゼナンから漏れているが、それ以上は何も言い返してはこなかった。


 迷宮核と言えば休憩場所から離しておいてある。青い光を一定間隔で繰り返している。ゆっくりと青い光を明滅させているそれは美しい。

 その側ではキマイラが気持ちよさそうに全身をグルーミングしている。


(既に変異した存在には心地好いんだろうか?俺が洞窟で迷宮核に近づいた時もソワソワしてたし、機嫌が良くなってしきりに肩の上で飛んだり跳ねたりしてたしな)


 いつもなら肩でだらけているキマイラが今は迷宮核の側ではしゃいでいる様に見えた。

「にゃーん」と鳴いてキマイラは充分堪能したのか迷宮核から離れて俺に近づいてくる。

 小さい羽根をパタパタと羽ばたかせるとフワフワと浮き上がりそのまま俺の肩にいつもみたいに乗っかる。


「じゃあ休憩もここら辺にして出発するか。」


「おい、どこに行くというんだ?まさかこのまま森を出ると言うのか?」


 剣呑な雰囲気を出してそう俺に訊ねてくるゼナン。今、俺しか持ち運べない迷宮核の脅威に警戒心を最大にしている様子だ。

 一度他の方法で運べないか試すのに、縄で輪を作りそれを迷宮核に引っ掛けて引いて運ぶ方法を取った。が、空中に浮いているはずのソレが引いてもビクとも動かなかった。

 俺が触れている時は重さも感じずに滑る様に動かせたのに、だ。

 この事実は俺しか今、迷宮核を運べる者が居ない事を意味する。

 エルフたちが近づけばどういった症状が出るか不明だ。危ない橋を渡る意味も今は無い状態。

 それで俺が自由だなんて言ったのだ、不審がるのも仕方が無い。


「エルフと交渉する。」


 静けさが辺りに広がると驚きの声が一斉に上がった。


「はァァァぁぁあ!?」


 そうやって一番声を張り上げたのはゼナンだ。他のエルフたちは静かにオロオロしている。


「あ、あの主様?」「え?何故ですか?」「あんな対応をしてきた奴らと?」「いったい何を・・・?」

「お考えが分かりません・・・」


 セレナだけはいつもと変わらない姿勢で立っていて冷静なようだ。


「主様のお考えは我らでは到底及びもつかない事。なれば我らはそのお考えに唯、従うのみ。」


「いや、意見があるなら言ってくれないと。俺がもしかしなくても見落としてる気付かない事もあるからね?」


「貴様、何を企んでいる!?場合によってはこの場で貴様を斬る!我らエルフを害するつもりなら容赦はせん。」


「お前に一々そうやって文句言われるの面倒臭くなってきたわー。あれだ、ここでハッキリとどちらが上かケリ付けるか。」


「ふん!俺を甘く見るなよ!人族如きに負けるか!」


「お前が負けたら俺のやる事、成す事、言う事に今後一切文句付けるなよ?」


「俺が勝てば貴様をこの森から永久追放だ!どれだけの腕があるか知らないが、あの時剣を叩き落されたのは貴様を意識していなかった事によるものだ。今回は油断など無い。俺が貴様をここで叩き潰してやろう!」


(あの時の事根に持ってるやんけ。まあそんな事は関係無いな俺には。ここでこいつのプライドを完全に叩き折っておこう)


 軽い挑発でここまで乗ってきたゼナンはチョロ過ぎる。相手の力量も知らず、知ろうともせず、己の自尊心だけで俺を見下して侮る。

「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という言葉を彼に送りたい。

 直情型で人に文句ばかり付ける奴が一番足を引っ張る。今のうちに黙らせておかないとエルフの長老との話し合いがこいつのチャチャ入れで先に全然進まない事も考えられる。


「相手が参ったと言わなければ決着はしない。それでいいか?あくまでも殺しは無しだ。互いの実力を身に沁み込ませて屈服させるのがこの喧嘩の意味だ。それでいいか?」


 俺がそう趣旨を伝えるとゼナンは大声で笑う。


「望む所だ!貴様の矜持をズタズタに切り裂いてくれる!」


「じゃあ用意は良いか?さあ、やろうか?」

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