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173  作戦成功

 目は片方潰れた。しかしそれもわずかな時間だった。白い煙を目から上げているかと思えば傷は完全に癒えてしまっていた。


「クソ!こいつ再生しやがった!?小鬼じゃ無かったのか?これほどの力をゴブリンが持つはずが無い!」


 ゼナンは驚愕している。だがそのキングの特徴は先程殲滅したゴブリンを巨大化させたような姿形なのでゴブリンである事は疑う余地がない。


「作戦二段階目!皆用意は良いか?」


 俺はそう声を張り上げてエルフたちにこれ以上の真正面攻撃は意味がない事を示す。


「カルディアは準備を!私はその動きに合わせる!他の皆は陽動!すぐ動いて!」


 セレナがそう叫ぶと一斉にゴブリンキングに斬りかかる。効かない斬撃を繰り返していく。

 一人が斬りかかればゴブリンの反撃を避け、その隙にまた他のエルフが斬りかかりまた反撃を避ける。

 それを繰り返しながら互いのフォローをしつつ立ち回る。それは時間だけを無駄に消費する行いだろう。


 だがそうでは無い。時間稼ぎとは得てしてこんなモノだ。通用しないからと言ってそれが完全に「作戦」から除外してしまえば取れる手段が大幅に狭まるし、諦めてしまう「言い訳」が早まってしまう。

 目くらましに丁度いい角度に相手の体勢を持っていき、カルディアの魔力を溜める準備を稼ぐのがこの茶番の目的だ。ゴブリンに気取られないための陽動。


 それは如何にして閉じ込めるか?だ。相手の動きが完全に止まって逃がす事の無い瞬間を作り出さなければならない。

 相手の動きの範囲や、瞬発力、破壊力を見て、どれだけの範囲を囲えばいいのかをカルディアは魔力を溜めつつ観察してその時を待っている。


 セレナも攻撃にある程度参加しつつもカルディアの合図を聞き逃す事の無いよう緊張感は最大にしている様子だった。


 ゼナンもゴブリンに果敢にその剣を振りかぶり斬りつけている。目を狙う様子は無い。それどころかもう警戒されて顔に斬りつける隙を見いだせていない様子だ。


 そこにエルフ四人が精霊魔法を一斉に放ってゴブリンの動きを止めた。「そよ風の防壁」それをゴブリンの脚、腕、胴を固定するかのように放ったみたいだった。

ゴブリンが「グガァ?」と疑問の声を喚いた次の瞬間だった。


「今だ!」気合と共に土の壁がゴブリンを囲う。背後左右天井、ゴブリンの巨体を絶妙な範囲で壁が覆う。その壁同士に隙間は全く無い。密着していて一部の隙間も無い。

 その中へマッチくらいの小さな火がゴブリン目掛けて放たれた。それがゴブリンに触れるか触れないかの所で「いきます!」と洞窟内に響くと同時に囲いを密閉する蓋が地面から出てきて完全にゴブリンを塞ぐ。


 ゴブリンはカルディアが発動した土の精霊魔法による壁で閉じ込められた。

 その中に一緒に閉じ込めた小さな火はセレナに発動させた火の精霊魔法だ。


 その火は閉じ込めた中の酸素を一片も残す事無く使い切り激しく燃え盛るように、と説明してある。酸素と言ってもセレナは、それこそこの世界の住人は理解していないので、それとなくニュアンスの通じる説明をしては有る。それと、とりあえず追加でゴブリンを髄まで燃やしてしまえと。


 そう、ゴブリンが生き物であるからには呼吸をしているはず。だから密閉した空間で酸素が無くなればそのまま呼吸ができなくなり死亡すると予想したのだ。

 ファンタジーとは言えども地球と変わらない化学なのだから通用するはず。そう見込んでの作戦だ。

 セレナがゴブリンキングに敵わないと口にした事でその作戦を考えた。一々俺が倒さなくてもエルフの力で何とかできないか?と「逃げ」の姿勢でいたからだ。


(だってこれ以上俺が手を出して「さすが主様」とか天井知らずに尊敬されるのは宜しくないじゃない?)


 だがこの考えも浅はかで後でまた「やっちまった」となるのだが。この時の俺はそこまで頭が回っていない。


 作戦が一先ず上手くハマって一息ついた矢先に閉じ込めた壁から激しい衝撃がしてきた。

 内側できっとゴブリンが拳を壁に叩きつけている音だろう。


「壁の強度も厚さも私が持てる最強にしてあります。心配はないでしょう。観察していましたので問題は無いかと。」


 カルディアはそう言って大丈夫だと安心させる為の言葉を口にする。

 だがそれだけでは油断に繋がるので警戒心は解かない。


 だけどその間にもやっておかなければならない事がある。

 それは迷宮核の処理だった。

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