171 ソレはまずいってば
そこはゴブリンで埋め尽くされていた。そしてその中心には一際大きいゴブリン。その背中が目に入る。
体長は二メートル半は行くだろうか?体格はゴリマッチョを遥かに超えるバッキバキの筋肉。たぶんそいつが「キング」だろう。
その身体が青く明滅している。皮膚は汚い緑色の体色をしているのに一定間隔で青く光っているのだ。
(これまでの推測からして未だに魔力を吸収してるのか?はたまた、ただ魔力に反応して光ってるだけか?)
それがどうして起こっているのか判断する情報が見えない。おそらく迷宮核が関係してそうだが「ソレ」がどこにも見当たらない。
「まさかここまでに・・・これではもう手遅れと言っても差し支えが無い程だぞ・・・」
ゼナンはこの光景を見て絶句してしまった。しかし俺にしてみればまだ行けんじゃね?と思える。
普通のゴブリンはいくら居ても広さが限定された場所なら逃げられることも無く殲滅できるだろう。
それだけの強さをエルフと言う種族は持っているはずだ。それは洞窟の入り口で証明されているはず。
「厄介です。あの中心に居る異常な成長を遂げた小鬼、おそらくは我々の手に負えません。奴から溢れている魔力の量はそれほどです。」
セレナも同じく腰が引けているようだ。確かに俺の目にも尋常じゃない事は見て取れる。
だけど、そもそも今の俺の精神状態はこの状況を真面目に考えていない。
ここにきて何を言っているんだと言われてしまうと返す言葉が無いのだが、それほどまでに目の前のゴブリンに意識を持っていかれている。
(だってゴブリンですよ?エルフまでは許容できてたけど、夢か現か幻か?ってな訳で。いよいよ俺と言う存在は異世界でファンタジーなんだなって、嫌でも受け入れさせられた感じだよ?)
まるで妄想の中にでも紛れ込んだような気分でフワフワ足元が落ち着かない。
洞窟探検に定番ゴブリン。それにダンジョンで魔力の結晶が、とか。
どうやったって今の俺が歩んでいる道は物語の主人公のソレだ。どこで、本当に何処で道を間違えた?ってな話だ。しかもこれ、話の序盤じゃね?ってなもんだ。
何処かで、そもそも根底から俺のこの考え方に「間違い」が紛れ込んでいるのかもしれない。
そんな今関係ない事で頭が一杯になっている所で、巨体のゴブリンが身体を動かして位置がずれた。
そこに見えた「物」は俺の思考をより一層搔き乱すに充分過ぎる代物だった。
(おいおいおいおい!それはアカンやろ?どう見たって「ソレ」を思い浮かべちゃうじゃんかよ!そりゃないぜ!)
某有名ゲーム会社が出している「最後の幻想」というタイトルを冠したRPGに出てくるクリスタルに良く似た物が浮かんでいた。
その高さは一メートル半、直径は五十センチくらいだろうか?その大きさは一目で「デケェ!」と口から思わず出てしまうレベルだ。
エルフたちもこの大きさを目にしたことは今まで無かったようでそれぞれが口々に呟いている。
「まさかこれほど・・・」「どうやってこれほどまでに・・・」「マズイって程度を既に超えている」「大きすぎて処理をどうすれば・・・」「あれに近づくだけで危険だ・・・」
美しい青い光を一定間隔で明滅させている。それにシンクロしてゴブリンの身体が青い光を明滅させる。
ようやっと俺は意識を現実問題に向け、どうするかを口に出す。
「えー、皆、良いか?先ずは余計なモノを片付けるぞ。準備は良いか?」
そう言って作戦会議を始めた。




