17 ガキ大将、その目にするもの
四人組リーダーの視点です。
彼は思っていた。この行為は村の為だと。
近づくことを忌避している村民たちの代わりに、勇気ある自分達がやらねばならないのだと。
「あいつを一刻も早く追い出すためには痛めつけてやるのが一番だ。」
「あいつがいる事実だけで村に活気が無くなりつつある」
「あいつはこの村に厄災を持ってくるんだ。潰さねえと。」
そんな事を毎回口にして仲のいい三人を洗脳していた。自覚も無く。
自らのその言葉は親から受けている洗脳のせいとも思わずに。
彼はそいつが畑に出てきていると耳にした時、早速やっつけてやろう、と駆け付けた。
6才の頃だ。石を投げ当てる。ただそれだけでそいつは泣きわめき家に逃げ出すだろう。
その程度の事しか想像できないくらいまだ稚拙な年ごろだった。
だが誰しもが想像だにしない結果になったのだが。
投げた石は当たらない、いや、そいつは避けようとするそぶりも見せなかった。
(いったいあいつは何だ・・・)
飛んでくる石を手で受け止めていた。その腕の動きは速すぎて目で追いきれない程の残像を残して。
彼は震える声が何からもたらされているのか理解できず、気付く事すらも無い。
その目で見た現実が信じられないから。
その場を逃げ出して村の広場まで走った。つるんでいる三人は口々に言う。
「あいつ何?やばいだろ・・・」
「やっぱり近づかない方がいい」
「手を出したらまずいんじゃ?」
それを大声で否定した彼は間違っていただろうか?
「臆病になってんじゃねぇ!あんなのまぐれだ。」
この時まで親から繰り返し聞かされていた話によって、洗脳は根深かった。
いくつもの直撃するはずの石が軽くいなされる。
一人、それもたった6才の同い年のやつに。
その事実は、彼の受け続けていた洗脳を壊すにはまだまだ衝撃が足らなかった。
長い腐れ縁、いじめの始まりだった。
だがそれを受けていた本人はどこ吹く風だったが。
ある時には、木の棒を持ち四人がかりで襲い掛かった。
「やっちまえ!」「コノヤロー!」「くたばれ!」「コンチクショォー!」
だが彼らの誰一人として当てられた者はいない。
「おいコラ!避けるなてめえ!」
その後も連携して、後ろから、横から、同時に殴りかかるのだが、かすりもしない。
(くそう・・・どうなってんだよ!こんなの・・・)
彼はこの時、自分と一瞬向き合ったが、
(こいつを一刻も早く追い出すんだ!俺たちが!)
だが強く根付いていた洗脳からくる使命感に追われて、自らの中の「恐怖」にまで意識は届かなかった。
この時の襲われていた本人は「一対多での体捌きのいい練習になるなぁ」だった。
またある時には物陰に隠れて奇襲を敢行した。
襲う前から無理だと心の隅にあったはずだが、彼には見えていないのだ。
(絶対にこいつを村から叩き出すんだ・・・)
もう彼の中の洗脳は、彼自身のモノに、考え方の芯にまで至ってきていた。
自分では修正の利かないくらいにまで。
それは自分の根底を壊さなければ治せないくらいに。
そんな事をすれば彼は精神崩壊の憂き目にあってしまうが。
もう戻れる地点はとっくに過ぎてしまっていた。
この奇襲もバレていましたと言わんばかりに躱された。
その後も四人で囲ってロープで縛り上げようとして逃げられ、
水を四方からかけようと桶を振りかぶっても一滴も濡れず、
森へ誘い込んで足を引っ掛けようとした罠を回避され、
その悉くが失敗に終わってきた。
そして今、彼は親の口からこの言葉を聞かされる。
「厄介者だ。いなくなっても困る者など誰もいない。いや、今すぐにでもいなくなればどんなに清々しいか。いっその事、亡くなればいい。そうだなあ、あの加護無しに矢でも射かけたっていい。」
親の言葉に染まりきっていた彼にはどうしようもない事だったのだろう。
もしくは親に褒められたい、喜ばせたかったのか。
子にとって親の存在は大きい。絶対的とも言える。
まだ養われている立場の歳では尚更。
その翌日には四人全員で弓を持ち出して集まった。
「今日こそあいつをヤるぞ。」
「でもこれは流石に?」
「大丈夫か?流石にこんなの村にバレたら・・・」
「ちょっとやり過ぎじゃ・・・」
ビビる三人は元より、彼も内心は怯えている。
だが声を張り上げてそれを払拭する。
「怖気づいてんじゃねえ!これで絶対あいつを仕留めるんだ!今まで散々コケにされてきてんだ!お前ら意地を見せろよ!」
終始、怒鳴る様に煽られ、三人はいつもの顔になる。
だが矢が無くなる頃には、その全員の顔は引きつってしまっていた。
(有り得ないだろうが!あんな事できるはずがないんだ!どうなってるんだ!)
目標に当たるはずの軌道を飛んだ矢は、その全てが空中で消える。
当たる前に掴み取られている。
しかもその腕の動きは残像すらも目には捉えられなかった。
「ば、化け物め!」
この時ばかりは、彼の感じた恐怖は、目を背ける事ができない位に大きかった。
だが何時もなら、その恐怖もその場から逃げて一晩経てば、誤魔化して頭の奥へ追いやった。
しかし今回は違う。恐怖に追い打ちが掛かった。
目の前を細い何かが風切り音を立てて掠める。
その後に乾いた音が鳴った方を見やると木に矢が刺さっていた。
呆然とする。あったはずの逃げる意識はそれに断ち切られて消失させられた。
彼だけでは無く全員が。
弓も無い、ましてや矢の先は潰してあるのに、刺さった。
誰もが、どうなっているのか?と疑問を頭に浮かべる。
だがそれをやった人物はこの場に一人しかいない、その事は恐怖と共に心に刻まれる。
「どうゆう了見?」
かなりの距離があったはずなのに目の前にそいつは立っていた。
自分達が呆けていたはずの時間は短い、なのにその一瞬でここまで?
走ってくる音もしなかった。まるでその場に最初から立っていましたと言わんばかりの顔で。
新たな恐怖に次々に晒される彼らに会話は無理だった。
もう罵声とも呼べない決まり文句が口を出る。
しかし親の事を聞かれて彼はやっとまともな答えを返す。
それは「まとも」じゃない内容だが、彼には当たり前で、不思議にも、疑いもしない。
(そうだ、こいつはここから、村から追い出すべきなんだ・・・!)
彼は親の言葉を思い出し、奮い立とうとしたが、そこに邪魔者が来てしまった。
彼は「加護無し」以外の村民には敵愾心を持たない。
それは「加護無し」の父親に対しても例外ではない。
それだけ彼は歪み捻じれていた。彼自身に尋ねてもその答えに辿り着けはしないだろう。
彼には何故そうなったのか?の自覚なぞ無いのだから。
怒りの声を上げるその横で、彼はバツが悪くなる。
(俺はあんたが憎いんじゃぁない・・・こいつが・・・こいつが・・・クソ!クソッ!)
彼は矢を射かけた辺りからの目の前で起きた出来事を反芻し始め、有り得ないはずの現実に思考を揺さぶられた。
(こいつは何であんな事が出来たんだ!?こいつはただの加護無しだ・・・ましてやマナだぞ!?魔法なんて使えるはずも無いのに?!)
混乱しているうちに話は進む。
先ほど怒鳴っていたのに今は静かに真顔になっている村民に尋ねられる。
「その話は本当なのか?」
彼は尋ねられた事に正直に答える。ましてや同じ村民だ。嘘を付く理由も無い。
「父さんはこの村の役員だぞ。その父さんが言ったんだ。こいつこそこの村から消えればいいんだ。」
目の前にいるのはその、加護無し、の「父親」だというのに、彼にはその事実は頭にない。
いや、知っている。知ってはいるのだ。
愛する子に「消えろ」と言われている親の心、それを彼に慮る事なぞ出来はしないだけで。
「お前たちには一緒に来てもらう。」
その一言は冷たく彼らに言い放たれた。
その場にいた全員は村長の家に向かう事になる。
それは不幸。親から植え付けられたモノ。
彼はそこで自らの愚かさと直面させられてしまうのだった。




