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160  豊かなる森

 一々剥ぎ取りつつ進んだのでそこまで距離は稼げていない。だがおそらくこの収穫を金に換えればしばらくどころかかなりの年月遊んで暮らせるだろう事は確かと言える。

 エルフの里に危機が迫っているかもしれない可能性がある状況で呑気に思った。


(帝国に向かう街道では急いでるなんて言って剥ぎ取りを無視したのに、道行く理由が変われば勿体ないと思ってしまう)


 エルフたちの強さを見ているので、そう易々とそんな種族がやられる訳が無いと思ったのも理由の一つだが。

 それにしても自分を薄情だとも思ってしまう。何せエルフたちを故郷に帰す事は全て俺の都合だからだ。しかもあまりにも勝手な都合でだ。


「主様、もうそろそろ収納できる限界です。いかがしましょう?」


 それだけの魔獣の剥ぎ取りをしてきた。いや、それだけの魔獣がこの森の中で生存、存在していた事が先ず驚く事だろう。それだけの生命を育む事のできる豊か「過ぎる」森。

 その奥地で暮らす事ができている種族、エルフ。どれだけ自然と共に生きてんだよ、と。弱肉強食の世界にそれでも一つの集団が秩序を持って生き続けている、その事実に結構な驚きが俺の中に浮かぶ。


「剥ぎ取りは続けて。入りきらない物は俺が持つ。」


「そのような事は主様にさせる訳にはまいりません。我らが持ち運びます。」


「いや、これは俺に必要な事であって、お前らが持ったら何の意味も無いんだよ。」


「は?」と意味が分からないと言わんばかりに唖然として止まっているエルフたちを見つつ告げる。


「できるだけ先に進もう。もちろん剥ぎ取りしつつね。はい、出発。」


 訳も分からず納得できないという顔をしつつもボチボチと道を先へと進んでいくエルフたち。

 アリルを野盗から助け、そいつらから引っぺがした荷を持って運んだ事は俺の記憶に新しい。

 加速状態でなくても俺の肉体は尋常じゃなく力持ちだ。信じられない位に。そう、加速していなくとも俺の身体は「異常」なのだ。

 その事実を改めて思い出した。俺は「加護無し」「魔無」であると。それがどの様な影響を俺に及ぼしているのかと。怪力もおそらくその一つ。

 これは「良い事」の一つだろう。だがそれ以外はまだ分かっていない。「悪い事」それはどんな影響がこの体に有るのか。

 解っているのは魔力を有していない事。それだけなら今は不都合が出ている訳では無い。けれども他の面で、もしかしたら何処かで何か悪い事に繋がる事も出てくるかもしれない。

 この世界の「人間」とはかけ離れた理で存在している俺が、どんな「歪み」をもたらしているか、もしくはこの肉体にもたらされているのか、不安は尽きない。が、そんな事を四六時中考えていても不毛なだけなのだ。

 目の前に現れる問題で手一杯な普通の「人間」である俺には重たすぎる不安は抱え続けるだけ無駄なのだ。答えを出すにも情報が足り無い。ならばそれは先送りにするしか凡人にできる事は無い。


 そうやって剥ぎ取りながら進んで夕方に差し掛かる頃に野営準備を始める。


「主様、夕食の準備ができました。」


 今夜の食事は魔獣の肉を使ったステーキ、森の山菜のサラダ、ジャガイモに似た野菜が入ったスープだ。結構豪華な食事になった。

 森の大分奥地に入って来て思ったのは自然が異常に豊かだと言う事。そこら辺に視線を向けるだけで異常繁殖して、かつ、巨大な草花、樹木、それに成る木の実。どれを取っても豊作なんて言葉では生ぬるいほどの収穫が見込める。


(そりゃこんだけありゃどんな生物も命をつなぐには簡単だろうな。でもそれだけ食物連鎖も激しいだろうな)


 野営での食事とは思えない贅沢な食事をしながらそう思った。

 そう、思ってしまった。それでフラグが立ってしまっているのに気付けない鈍い俺。

 村を出てから今に至るまでの散々な事態を思えば、既にここに居る時点で今後も何かと巻き込まれていくだろう事は察して有り余る程なのに。

 これだけの生命溢れる森なら俺一人増えても受け入れられるよな?などと自分の都合しか頭に無かった。

 ひっそりと隠棲するならこの森の中は最適だと、そんな取らぬ狸の何とやら。

 食事を終えたそんな時、「にゃーん」とキマイラが一鳴きした。


「主様、巨大な魔獣がこちらに一匹近づいてくる模様です。」


 警戒心を前面に出してエルフたちが護衛するつもりで俺の前に出て壁を作る。


「どうやら先の魔獣の暴走で餌場が混乱している模様で、それに伴って移動してきたハグレだと思われます。」


 立ったフラグを即回収。一戦交える事が確定になってしまった。

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