16 悪意への怒り
俺は手にあった矢を全部奴らに返してやった。
もちろん四人に満遍なく、顔の擦れ擦れを掠めるように。
「ひぇ!」「ひぃ!」「ひゃ!」「ひょ!」
ビビッてその場に硬直したその一瞬の間に、四人組の逃げようとした進行方向に立つ。
「ねえ、もう一度聞くけど、どうゆう了見?」
ビビッた事にだけではなく、こうして立ち塞がった事も、まともに対面で俺とは会話した事すらないので、彼らの態度は混乱、棒立ちだ。
「黙ってないで答えてくれないかなあ?」
俺は極力、棒読みで感情を出さないように言う。
「く、くそ!いい気になりやがって!父さんに頼めばお前なんてすぐ追い出せるんだぞ!」
全く答えになっていないその発言に溜息が出る。
(何だコレ?いわゆる・・・テンプレ?こんなセリフ言われるとか人生で初めてだよ。)
自分のそんなゆるい感動と感想に力が抜けたが、ここはしっかりと決着させないと、この先も面倒臭いままになるだろうから、ここは頑張る。
「弓矢なんか出してきてさ、俺を殺す気だったって事?」
「うるさい!そこどけよ!」
「鏃が付いて無いとは言え、目に当たれば失明するし、勢い余れば命も危なかったんだけど?その覚悟は?」
「お前なんてこの村から早く出てけばいいんだ!疫病神!」
全く会話が成立しなくて挫けそうになる。
さっきから俺に罵声を浴びせてきているのはリーダーだけだ。残り三人は「そうだ」と「出ていけ」の合の手?しか言ってこない。
「命を取る覚悟があれば、取られる覚悟もできていないといけないよ。」
「加護無しのクセして生意気なんだよ!」
ゲーセンでの対戦は「とるか」「とられるか」だ。
俺は散々それを体感してきている。前世での話だが。
ワンコインの重さは命と比べちゃいけないが、時に人は命を二束三文以下に扱う奴らもいる。
前世で、たった数万円で殺人を犯す輩のニュースが幾度も流れていた。
狩りをして俺はここで初めて命の「何たるか」に触れた。
だからここでいい加減で有耶無耶な決着をするつもりはない。
「今回の件はお前らの意思「だけ」で実行したの?それとも・・・・」
そこで溜めて、可能性の低い、でも黒い疑問をぶつける。
そうあって欲しくない、でも、そうであればこれまでになく厄介な話になる。
「お前らの親がそうしろと指示したのか?」
「ふん!父さんが言ってたんだ!どうせ厄介者のお前なんだ、いなくなればいいってな!早くに出て行く気になるよう矢を射かけたっていい、てな!」
これで確定してしまった。四人組が俺にちょっかいを出すように誘導していたのは、こいつらの親だ。
敵は子供の心理では無く、大人の悪意だ。それも陰険なものだ。
父が何度も訴えていたのに、そりゃ止まらない訳だ。
普通なら俺と少しでも関わり合いたくないと思うのが当たり前だろう。
条件にも村民の方から係わるのは自己責任となっているはずだ。
なのにこの親は自分で直接出向いてこないクセして、子供に「いじめ」という形で嫌がらせをさせてきていたのだ。
ヤバい。頭にき過ぎている。どうにか鎮めないと衝動的に動いてしまいそうだ。
(堪忍袋の緒が切れるって凄い衝動なんだな・・・)
今まで生きてきて、もちろん前世の分とも併せて、ここまで怒りにさらされた覚えは流石に無かった。
そこへ助け舟が来てくれた。
昼が過ぎても帰ってこないので心配した父が迎えに来たのだ。
そんなに時間が経っていた事を気付かなかったくらいこのショックは大きかった。
「またお前たちか!何度言ったら分かる!」
何度もこの様な場面に出くわしている父だが、四人組のその手に弓があることで流石に顔色を変えた。
「これはどうゆう事だ!いったい何だ!」
怒りに思わず怒鳴っている父を宥めるために真っ先に答える。
「どこも怪我は無いよ。安心して。」
そして続けて先ほどの話をかいつまんで要領よく伝えた。
それによって俺はだいぶ冷静になれたのだった。




