158 ボッコボコ
「おい、エルフどもが真正面からこっちに来るぞ!?どうなってる?偽物を掴まされたのか!?」
「ちっ!もういい、不意を突かないでも俺たちなら力ずくで捕まえられるだろ!行くぞ!」
こいつらは知らなかった。この魔導器の欠陥を。知らなかった。エルフの強さを。
それは簡単だった。最初から認識されている状態の相手には効果が無い事。
始めから尾行されていた事を知らない四人組。この結果、彼らは痛い目を見る。
だけどもこうなってしまった経緯にはもう一つ訳がある。
それは根本的な事。これを発明した魔導器職人がそもそも効果検証をしていない事。
そいつは思いどうりの効果が出たと自慢吹聴して「裏」にこの魔導器を売ったのだ。
金、それが欲しいがために正式な手続きをせずにそのまま「裏」へと持ち込んだ。
正式な審査では通るまでに時間が掛かり、しかも結果が著しく社会に危険と混乱をもたらすと判断されると研究を凍結されることもある。
これまでに同じような魔導器は開発されてきた。だがそれらは悪事に使われては社会崩壊を招くとして許可は下りていない。
だからこそ、その開発者は「裏」に持ち込んだのだ。製作したのは三つ。これだけの効果が出る魔導器、しかも結界を簡単に誤魔化し、干渉する効果。莫大な金を出して買う者がいる事を解っていて「裏」に持ち込んだ。
そう、エルフを求める酔狂な者たちへの大々的なアピールは成功し、それはスグに売れた。
最初の一つはダモーだ。今はエルトスの管理する倉庫に厳重に保管されている。お高い魔導器は一財産なのだ。
もう一つはオークションによる傭兵たちの落札。かなりの値段まで膨れ上がったが四人の全財産を出し切って購入した。それが今の状況に繋がっている。
そして最後の一つはまだ裏組織が「抱えている」状況だった。
この魔導器の価値が絶大だと気付いたからだ。売った先のダモーがエルフを六人も手中に収めた事を知る。エルフ狩り、それを商売にする為に最後の一つを組織は確保する。
ダモーの情報を掴む前に二つ目はオークションに出してしまい、そうして傭兵が競り落とすに至る。
何故連続で魔導器を売り出さなかったかと言えば「儲け」を出すため。珍しい品は小出しにするからこそ価値が下がらず、むしろ上がるのだ。
それが幸か不幸かエルフを奴隷として売り出す算段に繋がった組織の頭目はウハウハ気分だった。
だけれども、この後すぐに大戦団とも言える程の帝国兵の殲滅作戦によってこの組織は消滅する事になるのだが。
開発者も同時に捕縛される。罪名は「無い」。何故無いのかと言ってしまえば、闇に「葬られた」からだ。そう、魔導器の研究結果と共に。
「あった」事すら「無かった」事にされる。帝国の「暗部」だが、それは政治的判断による指示。この件がほんの少しでも漏れ広がらない様にするための。
これは皇帝がそれだけの「危険」をこの事件に見出しているからに他ならない。
そして場面は森の中に戻る。
そこには顔を原形が分からない程にブクブクに腫れ上がらせた男四人の姿。
「ぶげぇー・・・ぼうじわげありまぜんでじだぁ・・・」
「ひゅるひてくらはい~・・・もう悪事は働きまひぇん・・・」
「真っ当にこれがらばいぎでいぎまず~・・・ご勘弁を・・・」
「づみほろぼじの為なら何でぼじまず・・・どうか命だげば~・・・」
四人の男たちは息も絶え絶えに命乞いをしている。即座に斬り捨てずに素手でボッコボコ。
エルフたちは相当に怒り心頭だった様子が今は落ち着いてゴミでも見るかのような目で男たちを見下ろしている。
「あー、お前ら、俺の質問に嘘無く正直に答えてくれ。そうすりゃこのまま返してやってもいい。」
男たちに俺はそう言いながら近づいた。
「あ、あんたは、一体・・・」
エルフたちに戦々恐々しながらもいきなり現れた俺に警戒をし始める男たち。
そこに俺は何とは無く軽い気持ちで言ってしまったのだが、それは男たちをさらに恐怖のどん底に落としてしまったのだった。
「あぁ、このエルフたちの・・・何だろ?上司?」
俺の登場にエルフたちが跪くのを見た男たちは、まるでこの世の終わりでも見たように精気が抜けていっているようだった。




