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150  優柔不断は死の影を呼ぶ

 ダグザスはゴルデウロー専属の護衛騎士だ。だから今もここに居る。

 だが彼は今自らの人生の岐路に立たされている。


(あの六人は何なんだ!?まさかこいつらがあの魔獣を倒してしまわないだろうな?!)


 案外肝の小さいダグザスは自分の見ているモノが信じられないからこそ戸惑っている。


(奴らは紛れも無く組織を潰した奴らだ・・・先程の魔獣の脚が沈んだのがその証拠・・・)


 この魔獣を初めて見た時はゴルデウローにこう言った。


「これほどの戦力を覆せる者などこの世界にただ一人として居ないでしょう!どんな強者もこの魔獣、ひいてはゴルデウロー様の力の前にひれ伏しましょうぞ。」


 これはその時の本心だった。だから今もここに居る。逃げ出さず。


(だがこんな存在を目の前にしては迷わざるを得ない・・・どうする!?)


 未だ魔獣は倒されてはいない。だが敵の六人も疲弊している様子も見受けられない。

 先程から繰り広げられている戦闘。あの中では「人」は即座に戦闘不能に追い込まれる。


(エルフとはあれほどまでに強いのか!「人」では勝てる見込みが無い!)


 人外の動きをする六人を見てエルフだと確信したダグザスは揺れ動く。

 特等席の入り口付近までじりじりと下がりいつでも逃げ出す準備、それと言い訳を考える。


(物陰に隠れるように立っていた。皇帝からは俺の姿は見えていないはずだ・・・もし万が一にこちらが不利になる流れになればこいつを無視して自分の安全を確保だ)


 これまでゴルデウローに付いてきたのは自らの立身出世に「見込み」が出せるからだった。野心に乗っかり成功の暁にはその旨味を自分も受ける。

 それだけの絶対に「旨く行く」確信があったからここまで付いてきたのだ。

 だがそれを少しでも揺るがす存在が立ちはだかった。


 ダグザスは小心者。だからこそゴルデウローと言う絶対的な権力で自らをコーティングしていた。権力の名の下に全てはゴルデウローの責任。手足の様に自分は動くだけ。そうやって自分を「守って」いた。

 だが本当は優柔不断で蝙蝠の様な性格なのだ。ここまではそれが表に出ない程に計画は上手く進行していた。

 だけれどもその本性が出てきてしまう程の緊急事態に追い込まれている。


(少しでもこちらに負ける目が出てきてしまったのなら他の道を作っておくべきだ)


 そうやってゴルデウローに気付かれずに逃げ出そうとする。その前に魔獣が発する魔力が膨れ上がる。


(この魔獣の攻撃がどんなものか、それでこの六人が討てるのか、見届けて判断する!)


 逃げる決意の判断材料にそれを見届けるつもりで留まった彼が見たものは、会場中央を埋め尽くさんばかりの雷光だった。


(これほどの攻勢魔法!何百、何千の兵が居ようとこれならば勝利は間違いない!魔獣への私の評価は間違ってはいなかった!)


 だが次に静まり返った会場に響くのは透き通った美しい声だった。


「主様、我らの力が不甲斐なく、あの魔獣を倒しきる事ができません。申し訳ありません。」


(・・・何故だ!?何故なんだ!?生きているはずが・・・あれを躱すのか!・・・だが倒しきる事ができん、と。どうする!?逃げるか?それともまだ目は有るか?)


 この迷いが自らの命を絶つなどとは思いもよらないからこそ、彼はこの場から離れなかった。いや、離れられなかった。彼の優柔不断はここにきても変わらない。

 逃げれば今までの苦労、年月が水泡に帰す。それだけが後ろ髪を引くから。

 だが命に関して言えばここで絶対に逃げるべきだった。それももう遅い。


 彼の背後には黒い影が迫っていたから。

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