1346 お仕舞い、そして「黒歴史」
この魔物の騒動の後は別段他に何かある事も無く、静かに日々は過ぎて行った。
都市に迫ってきた魔物の首が一つ残らずいきなり飛んで問題が片付いたやら、状態の良い魔物の素材が大量に市場に出回って逆にそこで大騒動になったとか。
そんな事案は都市を騒がせたりしたのだが、俺の生活に別段何も影響が出なかった。
この件で俺がこの都市に戻ってきている事をセルラムに悟られてしまう。
それからは時々にセルラムが俺へと指名依頼だと言ってお願い事をしてきたり、その絡みで商業都市のボーナッツとの久しぶりの面会があったり。
そのついでにアリルの店に顔を出して様子を見に行くなどの出来事はあったが、概ね世の中を震わせるような「大問題」は起こしていない。起きていない。
グリフォンに商業都市まで乗せて行って貰ったり、キマイラと鬼ごっこをしている場面を目撃されたりもしたけれど、それくらいだ。
エルトスの居る屋敷に行って悪さをしていないかをちゃんと確認しに行ったりもした。
どうやらまともな組織運営をしているようだったのでコレにもう暫くは大丈夫だと判断したり。
俺の前だとどうやらエルトスは緊張するようで「監査だ」と言って屋敷をうろつく俺に終始ついて回っている間はずっと顔が引きつっていた様に思う。
セルラムからの依頼には商業都市での仕事がらみが少し多めだったので、エルトスの屋敷を宿代わりに何度も使ったりしていた。
こうして俺が闘技場都市に住む事に決めてからあった事と言えば、セルラムからの依頼を時々受けて各地に足を運ぶ、などと言った事くらいで「納まって」いる。
やれ、貴重な野生の薬草を取ってきて欲しい、やれ、珍しい魔物の捕獲をしてきて欲しいなど。
それらの依頼はなかなかにバリエーションがあって飽きさせないものだった。これらの依頼にバハムを一緒に連れて行く事で俺の負担を少しでも減らす事は忘れない。
最初からここに居を構えていれば、そんな風に思ったりもしたが、俺の持つ「力」はどうにも竜の元へと引き寄せられるように仕掛けがされていたと言う事なので、これは無駄な考えだったりするのだろう。
おそらくは将来、成長した姿が黄金竜となったあの元ヒヨコとの再会、なんていうイベントもあるのだろうと思う。
さて、その時はなるべく騒ぎにならないような状況での再会であって欲しいと願うばかりだ。
こうして闘技場都市に暫く住んでみればどうと言う事は無かった。俺のどうやら「運命」と言った奴はセルラムからの「依頼」と言った形で飛び込んでくるようになったからだ。
様々な「厄介な依頼」と言った形に変化して持ちかけられているらしく、チンピラに絡まれる、突然道中で助けを求める人に遭遇する、などと言った事は「ほとんど」無くなっていた。全く無くならないのが悲しい所だ。
さて、それでもどうやらこれに「運命神」とでも言えばいいか、俺へと押し付けられた「運命」の「歪み」と言うのは落ち着いてきていると見ても良いのかもしれない。
「どうやらこうして一か所に留まって見れば、どうって事無いじゃないか。うん、当初思い描いてたのとは大分違う生活だけど、まあこれで満足しておくのが無難だな。」
この都市に戻ってきて3ヶ月が過ぎた頃にはもうこの生活に俺は馴染んでいた。時々ワチャワチャとした騒動が起きて、全く関係無い俺が巻き込まれる事が暫しあったりもしたが、概ね許容範囲内だったりした。
バハムが首を突っ込んできて何かと動き回ってそう言った事に力を貸してくれていたりしたからだ。バハムは約束を守ってくれていたりする。まあ自分が楽しみたいと言うのが本音だろうとは思うのだが。
ドタバタ劇に心が疲れれば森へと言ってモフモフに癒やされるのも忘れない。
その時には毎度の事キマイラに鬼ごっこを強請られてしまうと言うパターンになったりもするが、その後はグリフォンのフカフカ暖かなその身に埋もれて癒やされ、キマイラを撫でて可愛がると言う回復手段を取っている。
グリフォンは大きさを自由自在に変化できるように鍛えているらしい。これにグリフォンがいつの日にかキマイラの様に三段変身ができる様になるのでは?と言った予想を俺はしている。
おそらくはグリフォンもその内小さくなれるようになると思われる。そうすればキマイラとグリフォンと俺との一緒の生活を闘技場都市でできる可能性が。その事に俺は夢を膨らませる。
可愛いペットと同居、良い事だ。俺の癒しがすぐ側にある生活、憧れである。一応はセルラムの経営の宿に俺は今住んでいるので許可は必要かもしれないが。
こうして俺は自分が今までずっと追い求めていた安定したそれなりの生活を送れている。当初の隠棲すると言う目標は達成できていないと言う点はもうどうでもいいと思える心理状態になっていた。
もう今後、世界をまたタライ回しにされる、と言った事は無いだろう。いや、無いとは言い切れない所がコワい。ここが俺の生きる場所、死んでいく場所にしたい所だ。
俺は心落ち着ける場所をこの闘技場都市と決めた。ここでならなんとかやっていけそうだと。まあ、それもこれも俺が完全に開き直ったからなのだが。
この場所で俺は今後生きて、そして死ぬ。ドタバタがあろうが、何が起きようが、それでいいのだろう。
「今日も良い一日になると良いなぁ。」
そう言って空を見上げるが、黒く分厚い雲が発生し始めてどうにも曇り始める空に俺は眉根を顰めた。
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自分が今まで回ってきた世界各地の国や地域で「黒き者」伝説が創られていたのを、この時点では全く俺は知りもしない。
この数年後にその事を、俺を訊ねてきたビノータから知る事になる。その時に三日ほどの間、俺は一人宿に閉じこもってベッドの上、身悶えてのたうち回る事になる。
その時に叫んだ俺のセリフは。
「なんだこの英雄や勇者扱い!?うわあああああ!恥ずかしい!誰だこんな編集したのは!これじゃあ俺の「黒歴史」じゃねーか!こんなのあんまりだろうが!何でどれもこれも全く似たような事になってんだよ!俺はそんなキャラじゃねぇぇぇぇ!」
ビノータから一冊借りて「どうなってるのか?」と言った疑問でその本を興味で読んでみたのだが。
その伝説物語の中では俺がもの凄く「恥ずかしカッコいい」セリフを吐いて人助けをしていると言う、事実とは全く異なった内容になっていたのだった。
コレに俺が八つ当たりで神をもう一度ぶん殴りたい衝動にかられたのは言うまでもない。
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終わり。




