1329 どうやら念願のアレができたようです
それはどんどんと増殖していき、人の形を取り始めた。そして少しずつだがその表面はつるりと光沢のあるものとなっていき、それは完全に真っ黒な「人」になった。
(嘘だろ・・・マジもんか?いや、どうだっていいんだそんな事は・・・とりあえずは・・・)
それと俺との距離はざっと5mは離れているだろうか?その黒い「何か」がピクリと僅かに動いた瞬間に俺は動いていた。無意識に。
身体全身が沸騰したかのような感覚と、そして実に冷たい冷静な思考をする俺の脳。
強く拳を握って素早く「何か」の懐に飛び込んだ。そして。
「やぁ!・・・ぶべぼ!?」
俺はその「何か」の顔面?をぶん殴っていた。もうそれこそ全身全霊で。
その「何か」が俺へと挨拶でもしようとしたのか、右手を上げて声を掛けてきた次の瞬間には俺の拳は「何か」を思いっきり吹き飛ばしている。
「・・・ふぅ~、はぁ~。よっし!」
俺の心は今もの凄く晴れ渡っている。拳をこれでもかと言わんばかりに気持ち良く打ち抜けた事で何処までもすっきりとした心持ちになっている。
そして残心を忘れない。忘れないが、心地の良い余韻を引きずりながらだ。拳に残る程良い抵抗感の残りをしっかりと感じながら握っていた手を開く。
そして一撃を入れるにあたって全身に入れていた力をゆっくりと抜いて気持ちを落ち着かせていく。
しっかりと心に平穏が戻ってきた所で俺は口を開いた。
「で、一応聞いておくけど、お前、何?」
「痛いんですけどぉぉぉぉ!?いきなり殴ってくるとか!どう言う思考してるの!?主神様にも殴られた事無いのに!」
「で、もう一度聞いておくけど、お前、誰?」
「ちょっとちょっと!殴る前に聞くべき事だよねソレ!どうしていきなり初対面で殴ってきたの!?普通は警戒して様子見とか!そう言った場面だったはずだよね!?僕は最初に手を挙げて挨拶したじゃない!怖がらせない様にと思って!」
「で、いい加減聞かせて欲しいんだけど、お前、何?」
「・・・もう何なの~コイツぅぅー。僕の事突然殴ってきておいて謝罪の一言も無いのかよぅ・・・」
一応はこの黒い「何か」が何なのかは俺にも想像が付いている。だけどもちゃんと本人?の口からちゃんと確認は取るべきだろう。誤解を起こさない、齟齬を起こさない様に。
「あのねぇ?君にその力を与えたのは僕だよ?アイツが君らを浄化しようとした時に、封じられている僕の所にまで響いて来るような強い思念があったからせっかく助けたのに。」
どうやら俺を「あの時」に助けてくれた「元凶」らしい。そしてやっぱりここに封じられていた、と言う事はこいつは何か悪さでもしたのだろうか?
「でもその力を使って仕事もして貰えた様だし、こうして封も解除できた事だし殴ってきた事は・・・勘弁してあげる。」
何だか上から目線で偉そうな事言っていて、それに何故か俺はムカついたのでもう一発ぶん殴ってやろうと思い、未だに立ち上がらずに地面?に座っている黒い「何か」へと近づく。思い切り拳を握りながら。
「え?何?・・・ねぇ?ちょっと待って?何でそんなにいい笑顔で近づいて来るの?何でこっちに来るの?・・・待て待て待て待て待て!待って!怖い!近づいてこないで!?」
黒い「何か」は手足をばたばたさせて俺から遠ざかろうとするが、遅い。
俺は握り拳をその黒い「何か」の頭へとゴチンと叩きつける。もう今の俺は「恐怖」と言った感情が消失している。
コイツが予想通りの奴であるのなら、俺の様なちっぽけな存在はきっと気まぐれで瞬時に消す事ができるはずだ。
しかしそうして考えてみても「やるならやれ」と言った気持ちに俺はなっている。死への恐怖などが俺の心には湧いてきていない。
むしろそれを遥かに超える怒りの感情が、代わりに俺の心の中では燃え上がっていた。
「痛いいぃぃぃぃぃい!ねえ!?何で!?何で僕は殴られなきゃいけないの!?痛い・・・」
「おい、お前、いい加減にしろよ?もう一度聞くぞ?お前は、何だ?誰だ?」
俺がしつこくこうして何者かを聞くので、やっとその黒い何かは諦めたのか自分の自己紹介を始めた。




