1324 そこはスルーで
その後、三日は何も無かった。街道を進み、分かれ道があれば他の旅人に道を聞き。野営用の旅人に解放されている広場では別段何も起きずに寝て、朝を迎える。
こうして俺はひたすらに闘技場都市を目指していた。いたのだが、俺はあの美しい湖に来ていた。水が怖いくらいに澄んでいるあの生き物の棲んでいないあの湖だ。
「この場所に何で俺が進んでいた道が繋がってるの?どっかで道を間違えた?この湖に道が繋がっているのならもうちょっと観光で他の旅人が居てもおかしくないじゃんか?え?なんだろうな?もしかしてここって結界でも張られてる?」
俺は湖の畔を警戒しながら歩く。だってしょうがない。俺は確かに旅人から道をしっかりと聞いて確認して確実にその道を歩いていたのだ。それなのに到着したのはこの湖である。警戒しない訳が無い。
「ここまでずっと順調で何らトラブルに巻き込まれなかったしな。・・・コレはとうとう、アレ?なのか?」
ゆっくりと湖を回るようにして考え事をしながら歩く。けれども何ら動きは無い。湖から得体の知れない何かがいきなり現れる様な気配も感じない。
静かなものだ。鳥や虫の鳴き声さえしない。本当に音が無い。唯一するのは風が湖面を流れるビューッと言った音をさせ強い風がたまに吹くくらいだ。
「警戒して損したのかな?まあ、いいか。今日はここで心の洗濯でもして一息入れようか。」
俺は椅子を取り出す。テーブルはあの「ロボ」のロケットの爆発で木っ端微塵であり、もう魔法カバンの中には無い。
ここで一泊するための準備をして後は日の光に煌く湖をずっと、ずっと眺めて時間を過ごした。夕方に入る前に食事を作り終えて摂り、そのまま夕方のオレンジに染まる湖面を眺めてうっとりしている俺。
段々と夜の暗さに染まりゆく湖は素晴らしい。その美しさに涙を流しそうになる位に。
だけどそんな俺の気分を台無しにする事態が起こったのだ。湖が、割れて行く。
ドンドンとその裂け目は開いていき、湖の中心まで伸びて行く。湖底がしっかりと見える状態で。
その先にはどうにもこうにも信じられない事だが、扉があった。真っ白に、ひたすら真っ白に光る扉。
既にもう夜のとばりが広がり切って空は暗く深い青に染まっているのに、その門だけが目立つ。
光の無い暗闇には白という色も深く溶け込んで消えてなくなるのだが、その門の白はその色自体が光っているが如くに闇の中に浮かんでいる。
「これだったかぁ・・・どうして今になって?って言うか、あの扉の先が何処に通じているかだよなあ?」
俺はコレに迷った。まるで「来い」と言っているかのようにこうして湖の底にあるその扉が露わになったのだ。
行って良いモノか、それともスルーするか。俺は完全に踊らされている今の状況が許せてはいない。なのであの扉の先が「神」の居場所に通じていると言うのであれば速攻でその扉を開く気はあるのだが。
「確実性が無い。このまま無視してやろうかな?どうせこれも黒い方の神がやってるんだろう?もしくはまあ誘導していたのかな、最初から俺をここに。それに乗っかるのは、なあ・・・」
今までの事を思い出す。そしてソレの締めくくりに最後はこれか、と。こうしてぐるりと各地の問題をクリアしてきた最後の最後で神との対面か、と。
「明日の朝までずっとこのままだったら行っても良いかな。今は疲れてるからもう寝よう。」
俺はテントに入って寝る事にした。こうして明日の俺に全てを丸投げしてぐっすりと俺は睡眠を取った。




