1320 人生は分かれ道の連続だ
さて、俺は街道を行く。目的地は闘技場都市。今の所順調に進んでいる。何せ爺さんと王女の二人の元から離れる際には加速状態で離れた。
ちゃんと姿が見えなくなる位に離れてから解除しているので、二人が俺を追いかけてくるような様子は感じられていない。
俺を追いかけるよりも俺から聞いた話で今後どう動くかがあの二人にとっては重要なはずだ。追いかける時間なんてありはしないだろう。
まあそれと目の前から俺が消えた事の驚きで直ぐにあの場から動くと言った思考にはならないのではないだろうか。
「このまま何事も無く進める距離の長さによって、その後にあるだろうイベント事の大きさが決まるな・・・」
幾度もそう言った遭遇をしてきている。パターンは分かっていた。ならば後はそれを推察するだけ。
どれだけの事が待ち受けていようともそれに対して冷静に対処するのだ。今回の件はこうしてケツ捲って逃げる決心をして行動し、それを貫いた事でここまで割とスムーズにあの国から離れられた。
とは言え、今までと比べて見て中身的に言えば、あの国の貴族との接触具合は短時間でありながら濃厚なものとなっており、今後に不安が残っている。
王弟の今後の俺へのアクションがどう言ったモノになるかは知りたくないし、もしかしたら王女が国に戻ってから俺の事を「恩人」などと言って捜索をさせるかもしれない。首輪をあっさりと外した件で。
第二王子はぶん殴ってしまっている。取り巻き連中も一緒に。なのでその点でも俺は指名手配されるだろう可能性が濃厚だ。
侯爵令嬢は俺の事をどう言う風に捉えているかも問題だ。いや、あの護衛の方の動きがどうなるか分からない事の方を考えると、あんな無礼千万な態度を取った俺の事を危険因子だと進言して即座に討伐した方が良いと訴えるかもしれない。
嫌な事ばかりが頭の中に浮かぶ。浮かぶのだが、その内に忘れる。もうあの国には近寄らないから。
いや、近寄る気は俺には無いが、もう一度戻らされるかもしれないと言う可能性は残ってはいるか。
俺の人生、運命と言うものはどうやら黒い方の神とやらに引き回されているのを俺は実感している。
きっと昔に存在したであろう依然の「黒き者」とやらもこうして「世界引き回しの刑」を受けていたに違いない、そう俺は思っている。
そんな事を考えていれば大分街道も歩き続けて分かれ道にぶち当たる。前方には三つの道が。
「嘘だろ・・・看板が何処にも見当たらないじゃないか?え?マジで?」
門番から聞いた話で言えば、最初の分かれ道を右に真っすぐ行けば闘技場都市に向かうと言っていた。
なのでこの分かれ道は予想外だ。いや、俺がこの事を全く考えていなかっただけで、もっと注意をするべきだったのだ。
「ここで選んだ道が間違っていると、別の「問題」の場所へと誘導される?いや、まさかそのまま闘技場都市へと続く道に、正解を選んでも何かがあるような気がする・・・駄目だ、疑心暗鬼になるな!心が落ち込む!」
普通ならここで一般人は博打に出るか、もしくは神様などに願い奉るのだろう。しかし俺はそうはしない。
むしろいつかは神のツラを一発ぶん殴ってやりたいと思っているのだから、こんな事で神に頼るような思考をしたら負けだ。
この心の奥底に淀む怒りはずっと燃え続けている。表面に出て来ていないだけで。ならばこの火を自らが絶やす、消火してしまう様な事は避けねばならない。
俺はこの火が消えてしまったら、きっとこの世界を生きるためのモチベーションの多くが消えると、何と無くそう今は感じていた。
「探せ・・・探すんだ。草むらの中にもしかしたら朽ちた道案内の看板がどこかに転がっているかもしれないんだ。後は、ここを通る人が居たら道を尋ねるだけで解決する。」
俺は先ずは今できる事をやってみる事を選んだ。




