132 城を歩けば
本日は晴天なり。俺は城で散歩している。
昨日は魔導玉でマズッた事が頭から離れずに良く眠れずにいた。なので目覚ましがてらそこいらを適当に歩いている。
朝食の時にレイカーナに許可は貰っていた。つか、食事を一緒に取るのは決定事項みたいになっているいつの間にか。
許しを得ているので気楽にフラフラと城内見物だ。エルフたちには今日は買い物を任せている。
きっと俺が一緒に街中へと繰り出せば、また面倒事に遭遇する未来を易々と想像できたから。
だけど先に言ってしまうが、この行為は「間違い」だった。
俺は未だに自分という者が「どんな」存在なのか解っていなかった。
ベッドでゴロゴロ、それが最も正解だった。しかしもう遅い。
「おい!貴様!平民の分際で!何用だ!?怪しい奴め!おとなしくお縄に付け!」
そう一気に捲し立てられてポカーンとしてしまった。確かに俺の来ている服はしょぼい普通の服だ。
だが皇女から「知らせ」はしてあるから、と言われて歩いていたのにいきなり声を掛けられたのに驚いた。
それまではメイドや警備兵は自分を見ても無視していたのに、この大男は俺を見るなり怒鳴って走り寄って来たのだ。
「貴様聞いているのか!?えぇい!申し開きがあれば牢でしろ!さっさと来い!」
身の丈二メートル近いその男は持っていた手槍を俺に向けて脅しに来た。
(騎士・・・かな?この身なりは?若干派手な鎧兜・・・)
俺が黙っているのがそんなにお気に召さなかったのか、そいつはより語気を強めてさらに脅し文句を吐いてくる。
「貴様・・・余程痛い目を見たいようだな・・・ならばこの場で望み通りに打ち据えてくれる!」
何処までも自己中心でしか言葉を発さないその男には呆れを通り越して感心すらしてしまう。
が、こちらも一言くらいは言っておかないと会話にすら発展しない、このままでは。
なのでそいつの動きを静止させるために手の平を前に突き出して言ってやる。
「俺は皇女レイカーナの客分だよ。話聞いてないか?」
「お前は馬鹿か?嘘を付くならもっとマシなモノにしろ!しかも皇女様の名を呼び捨てだと!?お前の首をこの場で私が今すぐ落としてくれる!無礼者!皇族不敬罪だ、跪け!」
余計に話にならなくなって、どんどんと俺の中のエネルギーが奪われていく。
(黙っていてもダメ、真実を言っても端から通じる下地も無い。これは何を言っても・・・)
諦めずにもう一言付け加える。この手の類には通じないと百パー解っていたとしても、僅かな希望を持って口を開く。
「皇女様に連絡をしてみれば分かる。俺も一緒について行くからこのまま皇女様の所に行かないか?」
「皇女様は式典の準備で忙しいのだ!貴様の様なカスなどに時間を取っている暇なぞ無いに決まっているだろう!そもそも平民如きが皇女様に会わせろだと!?ぬかせ!時間稼ぎも大概だな。命乞いならもっと気の利いた言葉を吐くんだな。」
ヤバい、これは。この男の独り舞台だ。クルクルと回って滑稽でしかありえない。
もし本当に俺の言った事が事実な場合、こいつが俺に危害を加えたら、それこそ殺しなんてしたら、この男の一族郎党全員残らず処刑コースじゃないか?こいつこそ皇族をないがしろにする発言をしてやいないか?
そんな事を考える頭すら無いのかと疑ってしまう。いや既に無い事は証明されている。
(どうしようコレ・・・もう手の施しようが無いぞ・・・)
悩んだ末に俺は取りたくない最後の手段を取る。
俺は逃げ出した。
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(ふー、加速してまでこいつから逃げ出す。話し合いができないのって非常につかれるんだよ)
辺りは俺以外止まっている。何分この城の廊下は広い。移動も人にぶつかる心配は無い。
街中でスリに会った時に真っ先に加速して金をとり返さなかったのはこのためだ。
人混みの中でその状態で人にホンの少しでもぶつかれば大惨事だったから。
それもここでは城の中とは言え歩いてるのは時折見かけるメイドや警備兵だけ。しかも人数も少ない。
この時ばかりは何の心配もせずに「逃げ」られる。
そうやってアッチ行ったりコッチ行ったりとまたこいつに見つからない様にと曲がり角をいくつも曲がって城の奥へと入り込んでいく。
そこで見つけた中庭らしき場所に来てやっと解除した。
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「あー、疲れたわー。無いわー、あんなの無いわー。アレは無しだわー。」
精神的疲労が激しい。それを癒すために綺麗に刈られた芝生へと寝転がる。
それは事態がややこしいルートに入ってしまう行動だった。その時点でそんな事になるとは分かるはずも無いが。
あんな疲れる奴から逃げられた事だけで頭が安心してしまっていたのだ。本来なら自分にあてがわれた部屋に戻ってベッドにダイブするのが正解だったのに。
俺は気持ちのいい芝生の感触に眠りに入ってしまった。
昨夜の寝不足が効いていた、自らフラグを立てていた、そしてそれをまた自らで回収していた事に、今夜寝る時にそれに気付いてしまって膝をつくほどに落ち込んだ。




